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「お疲れ様でーす」
最近入った事務の女の子が、声をかけると笑って手を振ってくれる様になった。俺と同い年くらいかな?過度の期待は禁物だけど、仲良くなれるといいなあ。
ちょっと幸せな気持ちをキープして、外回りの為に会社を出た俺だが。
自動ドア一枚隔てた向こうは地獄だった。
ふう……あ、暑い。
入道雲ぷかり。青空はぎらり。
かげろうはゆらり、そして人はくらり。
8月はなぜ暑い。それは8月だからだ。
哲学じゃない、ただの鉄則だ。
ここ数年、もしかすると人類を滅ぼすのは8月かもしれないと思ってる。ノストラダムスじゃないけどさ。
でも、ちっちゃい頃はこの暑い夏が大好きだった。一年中夏がいいと思ってた。
あの頃は太陽から降り注ぐ殺人ビームの直撃を全身に受けながら、毎日平気で……
いや、むしろ吸収して、エネルギーに変換して遊び回っていた。なんて無敵で不死身だったんだろう。
太陽エネルギーで活動、無敵で不死身。
そんなのもうテレビのヒーローじゃん。
だからあの頃の俺はヒーローになりたいなんて思ってたんだろう。きっと有資格者だったんだ。
いつか改造手術を受けて!
どこかの星の不思議な力で!
怪獣や怪人から地球を守るんだ!
……なーんて信じてたもんな。
別に黒歴史だなんて思わないよ。だって、同じ事を信じてた奴は世界中にいるはずだから。
今じゃ仕事とは言え、真夏に外回りなんてしたくない。
会社のドアは地獄の入口だったが、炎天下の営業車のドアは開くと火を吐くんだぜ。お前は大怪獣か。
仕事に燃えるのはいいが、これじゃ仕事で燃えてしまうよ。無敵と不死身はどこに置いて来たのだろう。
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