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突然、ドライヤーから熱風が出なくなった。
おいどうした、しっかりするんだ!
フォ〜ン、フォ〜〜ン……
なんて悲しい声だろう。ダメだ、冷たくなっている……どうやら電源コードが断線したみたいだ。
光の加減で虹の輝きを見せてくれるパールホワイトのボディー。色っぽいカーブはあの頃のままなのに。
ああ、まさかこんなに急に別れの時が来るなんて。
今までありがとう、アツコちゃん。
アツコ……将来は美容師になりたいと言ってた、おしゃれで指が長くて綺麗だったあの子の名前だ。
『ねえ、髪型こうした方が似合うよ?まかせなさーいほっらーイケメンじゃん!』
なんて言いながら激しく熱く、時に優しく。俺の髪を撫でてくれたね。
三千円に消費税というお手軽価格で、長い間俺なんかに尽くしてくれてありがとう、アツコちゃん。
明日にでも買って来なきゃ、と思っていると。
「あれっ?」
扇風機の「切」のボタンが効かない?
まさか……フウカちゃん!?
なんと「弱・中・強・切」四つのボタンがどれも動作しないじゃないか。
そんな……どうしてこんなになるまで俺は気付かなかったんだ!
もう無理はするな!もういいんだよ、止まっていいんだ。
仕方ない。断腸の思いでコンセントを抜くと、フウカはブンブンからくるくるへと減速する。
やっと止まってくれた時、首振り機能でちょうど俺の方を向いた顔は、確かに微笑んでいた。
フウカちゃん……
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