最終話 魔法の香水と恋の四角関係の始まり

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最終話 魔法の香水と恋の四角関係の始まり

 夏休みが終わる前日。私と慎吾は、あの像の前に行く。  修理は終わり、元に戻っており一安心する。  私一人で行くと言ったけど、慎吾はジャマはしないと言って、付いてきてくれた。 「話があるの。出て来てくれない」  私は、初めに会った幽霊の男の子に話しかける。 『なんだ、お()りまで来たのか?』  姿は見えないけど、あの男の子の声だった。 「どうして、となりのクラスの子を怖がらせて追いかけていたか分かったの。聞いてくれない?」 『……ああ』  私は、声のする方に話しかける。 「……あなたが悪いと決めつけて、ごめんなさい。悪かったのは、何も知らない私たち人間だった。あなたたちは、戦争で亡くなった霊だったんだね。この場所はあなたたちの家だったのに、その像が壊れてしまった。壊したのは、あなたが追いかけていた、となりのクラスの子たち。『よくも壊したな』はそういうことだった……」 『……そうだよ……。このゲームは君たちの勝ちだ。約束通り、僕はもう何もしないよ』  男の子の幽霊は、負けたのに嬉しそうな声をしていた。 「どうして、こんなゲームしようと提案してきたの?」 『別に……、ただの憂さ晴らし。ムカついたから』  男の子の顔は見れないけど分かる。うそだと。 「それだけじゃないよね?この像は、戦争で亡くなった子供たちを弔うためにできたんだよね!それを作った人の中には……」 『僕のお母ちゃんもいたよ……。お母ちゃんが作ろうとみんなに呼びかけたんだ』 「……そんな大切なものを壊したの!怒って当然だよ……」  私は我慢できず泣いてしまう。  戦争さえなければ生きれたこの子たち。子供を亡くした親。どんな気持ちでこの像を作ったのか、壊されたこの子たちは何を感じたのか。考えると、ただ苦しかった。 『……何でお前が泣くんだよ……?』 「許せなくて……。何も知らずに生きている私たちが……。」 『……もういい……。もういいよ……』  男の子の幽霊は、話し始める。 『……ぶつかって壊してしまった、とかなら僕だって許したよ。でもちがう、石で叩いていた!おもしろがって、何度も!この像が、何のために作られたか知っていたくせに!……だから、あの子たちに分からせてやろうとしたんだよ!初めは、あの子たちに話しかけた。像を壊したこと謝って欲しいと。だけど、笑ったんだ!だれのイタズラだって!本当の霊だと話したけど、信じてくれないどころか、あんなオンボロな像壊していいだろう……って』 「ひどい!」  思わず、感情のまま叫んでいた。 『……だから「呪ってやる」と言ったんだ。始めはイタズラだと笑っていたけど、だんだん怖がり始めて逃げるから追いかけ回したんだ。目には見えない得体の知れない存在に追いかけられていると気づいて、怖がって、許してくれだって。最初から、しなければいいのに!』  声を聞けば分かる。……泣いているのだと……。  私は、『魔法のマニキュア』を付け、その男の子の幽霊を抱きしめる。  姿を見られないように強く魔法をかけていても、触れられないようには魔法をかけていなかったみたいで、容易に触れることができた。 『さ、触んなよ!』  口調とは違い、まだ小さな体をしていた。そして、やはり細い体をしていた。 「あなたは何歳の時に亡くなったの?」 『入学したころだから六歳……か?』 「そんな幼くして亡くなったのね。まだ一年生なのに……」 『子供扱いするな!平和ボケしたやつに言われたくない!』 「子供だよ!私たちの時代では!」  その言葉に、男の子の幽霊は黙り込む。  すると、男の子は姿を表してくれた。  体はやはり小さく、痩せていた。今の時代の一年生より、明らかに小さく、栄養が足りていなかったと分かる。 「……ごめんね……」 『……別に。じゃあ、こっちも謝るよ。平和に生きる君たちが本当は羨ましかった。だから役目を放棄して、イジワルしたくなったんだ……。』 「役目……」 『いや、なんでも……』 「守護霊として、守ってくれていたこと?私が一年生の時に池にはまりそうになったことがあったんだけど、ふしぎな力が私を押し戻してくれたの。その時ね、『気を付けないといけないよ』と聞こえたの。優しい男の子の声。それ、あなたじゃなかったの?」  幽霊の男の子は私を見る。 「あなたが、となりのクラスの男の子を追いかけている時、聞き覚えのある声だと思ったの。……前に助けてくれたんじゃないかな……って。」 『……さあな、この学校にどれだけの児童がいると思ってるんだ!お前のことなんていちいち覚えているわけないだろう!他のやつが助けたのかもしれないし!』 「うん、そうだよね……。でも、やっぱり守護霊だったんだ」 『あ!……うるさいな!』  男の子の幽霊は怒る。 「守っていた子供に大切な物を壊される……。普通、怒るよね……」 『……守護霊でいるのがバカバカしくなった!だったら、魔法の力は自分たちのために使うとみんなで決めた!……そんな時に君が現れた。つまらないゲームの提案だった。けど本当に考えて答えてくれるなんて思わなかったよ』  そう言うと、幽霊の男の子は笑った。 「私一人では分からなかった。慎吾がいてくれたから。慎吾が山で迷った時も、助けてくれたの?」 『別に助けてない!お前らは別ルートに行ったのに、あのバカずっと待ってて、だから……』 「助けてくれたんだ?ありがとう、慎吾に変わって、お礼を言うよ」 『別に!……っていうか、今の話を聞いて何か気づかないのか?』 「え?何が?」 『鈍感!』  そう言い、幽霊の男の子は私に見ていた状況を教えてくれる。私はその話に、思わず頬を赤らめた。 『礼言っとけよ……』  そう言い、幽霊の男の子は、私をじっと見てくる。 『……この町には、まだ何にもなれていない霊がいる。もし、関わる機会があれば助けてやってくれないか?』 「え?もちろんだよ!どこにいるの?助けないと!」 『待て!「もし」と言っただろう?お前は魔力も霊感もないから危ない!幽霊も人間と同じで、良い霊、悪い霊がいるんだ!……死んだことを受け入れられない霊や、恨みから人間に攻撃的な霊もいる。お前が戦ったら、取り憑かれる可能性がある!』  私はビクつく。確かに、魔法の力は借り物だった。 『だから、「もし関わる機会があったら」の話だ。話し合いで解決できないと感じたら、逃げろ。分かったな?』 「うん……」 『頼りないから、もしもの時は僕の力も貸してやるよ。僕の名前はヒロシ。分かったな?』 「ありがとう……」 『お前、心配だから後であいつにも言っとくか……』  ヒロシくんは、慎吾を見る。 『待たせているから、帰れ、じゃあな』 「うん、話聞いてくれてありがとう!」 『……ありがとう……、香澄……』 「うん!」  ヒロシくんの声が消えた。  すると、像はいつもの優しい表情に戻った。 「帰ろう、香澄」 「うん。……また明日ね、みんな」  私と慎吾は学校を後にする。 「話せて良かったな」 「うん。……ねえ、慎吾?」 「何だ?」 「四年生の遠足の時、どうしてはぐれたの?慎吾、運動神経良いし、はぐれるなんて……」 「え!いや、たまたまだから!」 「あの時、足が遅い私は、引率の先生と最短コースを歩かせてもらったの。先に歩いていた、慎吾たちとは違うコースを。だから、もしかして、慎吾あの時私と先生を待ってくれていたんじゃないかなって……」  私の顔は赤くなる。 「な、なんでそう思うんだよ!」 「だって、ヒロシくんが聞いてみたらって……」  慎吾は、黙り込む。 「別に、香澄を待ってた訳じゃないから!先生大変だろうと思って!」  慎吾の顔はまた赤い。  四年生の時なんて、全然話していなかったのに、気にかけていてくれたことが嬉しかった。  その夜、私は眠りにつく。すると……。 『香澄ちゃん、あの子たちを止めてくれてありがとう」  いつも夢で話す優しい声。星の精霊さんだ。 「星の精霊さんのおかげだよ、こっちこそありがとう!……ねえ、星の精霊さん聞いていい?」 『何?』 「星の精霊さんと、守護霊のみんなとは知り合い……。ううん、友だちだよね?だから……、星の精霊さんは……」 『うん……、香澄ちゃんが気づいた通り、私もあの子たちと一緒にね……』 「やっぱり、そうだったんだ……」 『そんな顔しないで。空から平和な世界を見るのは幸せなんだなら』 「どうして精霊さんに?」 『人は、死んだら幽霊になって、成仏したら星の精霊になるの。私は死んで、すぐ成仏したから』 「あの子たちは……?」 『守護霊として、子供とあの像を守ると決めたのよ。だから、成仏するまであの場所にいるつもりみたいね』 「そっか……」 『香澄ちゃん、ありがとう……。ヒロシくんが、香澄ちゃんにゲームをするように言ったのは、きっと止めて欲しかったからだと思うの』  私は、ヒロシくんがゲームに負けた時の声を思い出す。  確かに、嬉しさと安心した声に聞こえた。そうだね、止めて欲しかったんだ……。 「また会える?」 『もちろん、夢に会いにいくよ。香澄ちゃんも星に声をかけてね』 「うん!」 『香澄ちゃんに、お礼として、一つすごいコスメを渡すわね。普段はオシャレに、必要な時は魔法として使ってね……』  朝、目が覚める。  私の手に握っていたものは、一つのコスメだった。  ピンクの小さな小瓶に、スプレーのノズルが付いていた。  ドキドキしながら、手にスプレーすると、甘い香りに包まれた。 「この香り……」  私は、あの時のことを思い出す。 「やっぱり、助けてくれたのは星の精霊さんだったんだね!」  私は、『魔法の香水』を見て笑う。 「あ、今日から学校!」  私は慌てて、登校の準備をする。  八月末。新学期が始まり、私たちはまた集団登校をする。 「じゃあね」  下級生の子と別れ、私たちは中庭に行く。  もちろん目的地は、あの像。毎日、手を合わせようと慎吾と決めた。  するとそこには、先生が手を合わせていた。 「先生!」  私は思わず、先生に抱きつく。 「何度も病院に来てくれてありがとうな。もう大丈夫だから」 「はい!」  先生はろうそくに火をつけ、線香を立てていた。その短さから、早くから来ていたのだと分かる。  その姿に、ヤスコちゃんが笑っていて、先生はその姿を見つめているように見えた。 「先生は見えているのですか?」 「いや、先生は、そうゆうのは分からないから」  先生は苦笑いする。  やっぱり、霊感あること気づいてないんだ。 「この花も先生ですか?」  像の前に野花が供えられていた。 「いや、違うな。きっと謝りにきたんだよ……」 「……あ」  私たちは、これ以上話さなかった。 「先生!大丈夫ですか!」  次は拓也くんが来た。  ミヤちゃんが、拓也くんの横に行く。すごく嬉しそうな笑顔で。 「ああ、病院来てくれて、ありがとうな」 「はい!」  私たち四人は手を合わせる。こうすることが、一番の供養だから……。 「……お前たちが、平和な未来を作ってくれよ……」 「はい!」  私たちは返事する。  その話を、ヨシオくんが頷いて聞いていた。 「おっと、大変だ、戻らないと。後で嬉しいニュースがあるぞ」  話しながら、先生がろうそくと線香を片付ける。 「嬉しいニュース?」 「ああ!楽しみにしとおいてくれ!さあ、教室行けよ!」 「はい」  私たちは教室に向かうために、階段を登る。  ズルッ。 「きゃあ!」  私は足を滑らし、階段から落ちそうになる。しかし……。 『……あいかわらず、そそっかしいな……』  落ちることなく、支えられていた。 「ヒロシくん……」 「香澄、大丈夫か!」  慎吾は心配してくれるけど、幽霊たちのおかげで大丈夫だったと気づく。 『もう、慎吾くん。香澄ちゃんは危なっかしいんだから目を離さないでよね!』  キヌちゃんは、私を支えながら慎吾に話す。 「いやいや、慎吾聞こえていないから」 『じゃあ、取り憑いて話そうかなー?』 「それは絶対やめて!」  私は幽霊たちと軽口を交わす。  慎吾は笑って見ていたけど、一人驚いている人物がいた。 「……慎吾、香澄ちゃん誰と話しているの?」 「え?いや、空気?」 「え?」  優しい拓也くんは、私を心配そうな目で見つめていた。 「おはよう」 「おはよう!」  終業式前の、どこかギスギスした空気はすっかりなくなり、いつものクラスに戻っていた。  だから……。 「慎吾くん!」 「あ、姫乃ちゃん」 「夏休みどうだった?野球はどう?日焼けしたねー!」  姫乃ちゃんも変わらずだった。……手強いライバルだ。 「みんな、おはよう」 「先生!」  クラスのみんなが、安心した表情で先生を迎える。 「悪かったな。でも、もう大丈夫だから!それと嬉しいニュースだ!転校生を紹介する。さあ、中に入って」 「転校生!」  クラスみんなが、その子を見る。  その転校生は男の子。背が高く、メガネをかけ、頭が良さそうなイメージを感じた。 「え、カッコいいかも……」  数人の女の子たちが、コソコソ話す。  カッコいいとかはよく分からないけど、女の子の人気もありそうだな。 「第二小学生から来ました。よろしくお願いします」  転校生の男の子が笑うと、女の子たちがじっと見ていた。  どうやら、人気者になりそうな予感。  チラッと姫乃ちゃんを見るけど、普通に拍手しているだけ。好きになってくれたら……と願ってしまう私はやっぱり身勝手だな。  やっぱり転校生の子は人気で、男の子、そして女の子によく話しかけられていた。  私は初めての人とは、あまり話せない性格。  その様子を見ていたら、転校生の男の子は私を見て笑いかけた。  私は慌てて目を逸らす。  ……あ、私ひどいよね。ちがう、なんか。……なんなんだろう?  何とも言えない感じが、あの転校生からした。  今日は始業式。三時間で終わりのため、みんなで下校する。  あの転校生も、私たちと同じ方角。だから、一緒に帰る。  すごいな、もう下級生の子たちとも仲良くなってる。私も、これぐらいみんなと話せるようになりたいな。  そう思っていると、集合場所に戻ってきた。 「また明日」とみんなと別れ、転校生の男の子とも別れ、慎吾と家の前で別れる。  私は家のカギを出して中に入ろうとすると、誰かに呼び止められた。  あの転校生の男の子だった。 「……あ、どうしたの?」 「……吉田香澄さん、僕はあなたを見ていました」  転校生の男の子は私を見て、優しく笑う。 「え?」 「幽霊たちと話をして分かり合うなんて、あなたは素晴らしい人だ」 「え!な、何のことか分からないないな……」  いきなりのこと過ぎて、上手くごまかせない。 「……分かりますよ、僕は霊感があるのだから」 「え!」  私は、転校生の男の子を見る。 「……この町には、まださまよえる幽霊がいます。どうか、一緒に導いてくれませんか?」  そう言って、私の手を握ってきた。 「待て!」 「え?慎吾!」  慎吾が私たちの前に来たかと思ったら、握られていた手を引き離してきた。 「香澄は霊感ないし危ないだろう!人と同じで、良い幽霊もいたら悪い幽霊もいるんだから!」 「分かっていますよ。でも、香澄さんの『魔法の力』『勇気』『優しさ』と、僕の霊感があればできます。大丈夫、あなたは私が守る」  転校生の男の子は私を見つめる。 「だから、香澄さんのパートナーはあなたではなく僕です」 「何!」  町にさまよう幽霊たちに、霊感を持つふしぎな転校生の男の子。そしておたがいをにらむ二人。  波乱(はらん)の二学期が始まってしまった。
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