4話 魔法のアイシャドウと初恋の彼(2)

1/1
前へ
/13ページ
次へ

4話 魔法のアイシャドウと初恋の彼(2)

『香澄ちゃん……、香澄ちゃん……』  だれ?  暗闇(くらやみ)の中で声がした。  暗くて、だれの声か分からない。 「あなたはだれ?」  私は勇気を出して聞く。 『私の声に返事をしてくれて、ありがとう。私は星の精霊(せいれい)。あなたに「魔法のリップ」を渡した人、と言えば分かるかな?』 「え! あの! ……やっぱりあのリップには魔法の力があったんだ!」 『うん。気づいていると思うけど、あのリップを付けると「幽霊の声が聞こえて、話ができる」の。あの子を止めてくれてありがとう』  星の精霊という人は、優しい声をしていた。 「……どうして私にあのリップをくれたの?戦える人は他にいくらでもいるよね?どうして……?」 『香澄ちゃんがあの日、困っている人を助けたいと願ってくれたから。あなただと思ったの。勝手にごめんなさい……』 「でも、あの日から幽霊の声聞こえないよ!どうしてなのか分からないの!私にはできない……。霊感も魔力もないし、私じゃ何も出来ない!」  私はまた泣いてしまった。本当に、この弱虫な性格をなんとかしたい……。 『怖いよね……、ごめんね。でも聞いて!次は慎吾くん狙われているの!お願い、助けて!最後で良いから!』 「慎吾!どうして……?まさか、最近のケガは!」 『そう、幽霊がしているの……』 「そんな!()めて!」 『ごめんなさい……、私では止められないの。私は星の精霊(せいれい)だから、人間界(にんげんかい)には関与(かんよ)はできないし、直接助けることもできない!幽霊たちを説得しても聞いてくれないし、できるのは人間に魔法の力を分け与えるだけ。だから、お願い()めて!香澄ちゃんが怖いこと分かっていたから、他の人も探していた。けど、「本気で幽霊から、みんなを守りたいと思わないと魔法は使えない」の!』 「慎吾ならできるよ!慎吾に狙われていることを話して、魔法で自分を守ってもらったら!みんなを守りたい、と思っているだろうし、だめかな!」 『……私が力を分け与えられるのは、同世代(どうせだい)の女の子だけなの』 「そう……なんだ。同世代?え?精霊(せいれい)さんは私と同じぐらいなの……?」 『あ、ごめんなさい……。私が星の精霊(せいれい)、ということ以外は、あまり話せないの……。さっき話した通り、人間界に関与はできないし、直接話せないから夢で話しているの。お願い、慎吾くんを助けて。……あの子にこれ以上繰り返させないで……。今、すごく苦しんでいるみたいだから……』 「……できるかな?」 『できるよ!慎吾くんを助けたいと思ったら』 「ありがとう、星の精霊(せいれい)さん。力を貸して……」 『もちろんだよ、ありがとう香澄ちゃん』  目には見えない存在、手に触れることもできない存在。でも確かな温かさを感じた。  ありがとう、星の精霊(せいれい)さん……。私はもう逃げないからね。  私は目を覚ました。いつの間にかベッドで眠っていたようだ。  確か、窓から星を見ていたはずなのに?……星! 「星の精霊(せいれい)さん!」  慌てて起き上がると、私の手には新たなコスメがあった。 「夢じゃなかった!」  慌てて窓から空を見るけと、夜は明けていて夏の太陽の日差しがまぶしかった。  目を逸らす為に下を見ると、慎吾の姿が見えた。  その姿はいつもの体操服じゃなくて、野球チームのユニホームだった。 「今日は学校で試合!慎吾、危ない!」  私は慌てて窓を開けて、慎吾に行ってはいけない叫ぶ。  しかし、慎吾は気づかずに自転車に乗って行ってしまった。 「慎吾!」  私は星の精霊(せいれい)さんから貰ったリップと、もう一つのコスメをポケットに入れ、自転車を走らせる。  私が住む長崎(ながさき)県長崎市は、坂道が多いことで有名な町。  学校への道は、上り坂と下り坂を繰り返す道のりだ。  慎吾は立ち()ぎでスイスイと行くけど、私はすぐ漕げなくなった。  そんな私が追いつくはずもなかった。  ……また行ってはいけないと言ってしまったな……。  下り坂になったところで、自転車を走らせながら思う。  慎吾が頑張ってきたこと知ってるくせに、私はなんでそんなことばかり言うのだろう。好きな人を応援できない私は、なんなのだろう?  ……「行ってはいけない」ではない。「私があなたを守るから頑張って」そう言えるようになろう。だから慎吾は私が絶対守る。  そう決意をし、学校に行った。 「はぁ、はぁ、はぁ」  やっと学校に着いた。私は疲れから足がもつれる。でも慎吾を探さないと……。  みんな同じユニホームを着ているけど、慎吾はすぐ見つかった。いつも見ているから、分かる。  本当は危ないからと手を引いて帰りたい。でも慎吾は、絶対ホームランを打つと言っている。だから……、それはしないと決めたんだ。  そこで私はやっと気づく。  慌てて来たから化粧をしていなかった。  ……いや、それどころか服を……。  今すぐ帰りたい気持ちを抑え、草陰(くさかげ)に隠れ、慌てて「魔法のリップ」を付ける。  すると……。 『もう、こうするしかないの……。時間が……。大丈夫、ケガさせるだけだから……。拓也くんのためだから……』 「え?」  聞こえる!幽霊?やっぱり慎吾が狙われていた!どこ?どこにいるの!  私は周りを見渡すけど、幽霊を見つけられない。やっぱり私には、霊感も魔力もないから……。  ううん、落ち込んでいる場合じゃない。どうするか考えないと……。  私はやっと、もう一つのコスメの存在を思い出す。慌ててポケットを探ると、小さなコスメが出てきた。  それはピンクのアイシャドウだった。  雑誌で見たことある!確かまぶたに()ると、キラキラしてかわいかったのを思い出す。  私は、アイシャドウのパレットに付いていた小さな鏡を見ながら、ピンクのアイシャドウをまぶたに()る。  そして、もう一度練習をしている野球チームを見た。  すると、ユニホームを着た子たちの中に一人甚平(じんべい)みたいな服を着てる女の子がいた。  その子は半透明(はんとうめい)で、小さく、異様(いよう)に痩せていた。  見つけた!あの子が幽霊だ!  私は走って幽霊の女の子に近づく。  どうしてあんなに痩せているのだろう?  どうして汚れた格好しているんだろう?  階段上で何しているの?  ……どうして慎吾を見て泣いているの?  とにかくやめてと頼まないと!あれ?何するの?  その幽霊の女の子は、階段を登っている慎吾の体と重なる。  これってまさか、取り()いて……!  そう思った瞬間、慎吾の体は宙を浮く。  (みずか)ら階段下に飛び込むように見えた。 「慎吾!」  私は慌てて()()ろうとするけど、間に合わない。  慎吾の体は階段下に落ちていく。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加