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4話 魔法のアイシャドウと初恋の彼(2)
『香澄ちゃん……、香澄ちゃん……』
だれ?
暗闇の中で声がした。
暗くて、だれの声か分からない。
「あなたはだれ?」
私は勇気を出して聞く。
『私の声に返事をしてくれて、ありがとう。私は星の精霊。あなたに「魔法のリップ」を渡した人、と言えば分かるかな?』
「え! あの! ……やっぱりあのリップには魔法の力があったんだ!」
『うん。気づいていると思うけど、あのリップを付けると「幽霊の声が聞こえて、話ができる」の。あの子を止めてくれてありがとう』
星の精霊という人は、優しい声をしていた。
「……どうして私にあのリップをくれたの?戦える人は他にいくらでもいるよね?どうして……?」
『香澄ちゃんがあの日、困っている人を助けたいと願ってくれたから。あなただと思ったの。勝手にごめんなさい……』
「でも、あの日から幽霊の声聞こえないよ!どうしてなのか分からないの!私にはできない……。霊感も魔力もないし、私じゃ何も出来ない!」
私はまた泣いてしまった。本当に、この弱虫な性格をなんとかしたい……。
『怖いよね……、ごめんね。でも聞いて!次は慎吾くん狙われているの!お願い、助けて!最後で良いから!』
「慎吾!どうして……?まさか、最近のケガは!」
『そう、幽霊がしているの……』
「そんな!止めて!」
『ごめんなさい……、私では止められないの。私は星の精霊だから、人間界には関与はできないし、直接助けることもできない!幽霊たちを説得しても聞いてくれないし、できるのは人間に魔法の力を分け与えるだけ。だから、お願い止めて!香澄ちゃんが怖いこと分かっていたから、他の人も探していた。けど、「本気で幽霊から、みんなを守りたいと思わないと魔法は使えない」の!』
「慎吾ならできるよ!慎吾に狙われていることを話して、魔法で自分を守ってもらったら!みんなを守りたい、と思っているだろうし、だめかな!」
『……私が力を分け与えられるのは、同世代の女の子だけなの』
「そう……なんだ。同世代?え?精霊さんは私と同じぐらいなの……?」
『あ、ごめんなさい……。私が星の精霊、ということ以外は、あまり話せないの……。さっき話した通り、人間界に関与はできないし、直接話せないから夢で話しているの。お願い、慎吾くんを助けて。……あの子にこれ以上繰り返させないで……。今、すごく苦しんでいるみたいだから……』
「……できるかな?」
『できるよ!慎吾くんを助けたいと思ったら』
「ありがとう、星の精霊さん。力を貸して……」
『もちろんだよ、ありがとう香澄ちゃん』
目には見えない存在、手に触れることもできない存在。でも確かな温かさを感じた。
ありがとう、星の精霊さん……。私はもう逃げないからね。
私は目を覚ました。いつの間にかベッドで眠っていたようだ。
確か、窓から星を見ていたはずなのに?……星!
「星の精霊さん!」
慌てて起き上がると、私の手には新たなコスメがあった。
「夢じゃなかった!」
慌てて窓から空を見るけと、夜は明けていて夏の太陽の日差しがまぶしかった。
目を逸らす為に下を見ると、慎吾の姿が見えた。
その姿はいつもの体操服じゃなくて、野球チームのユニホームだった。
「今日は学校で試合!慎吾、危ない!」
私は慌てて窓を開けて、慎吾に行ってはいけない叫ぶ。
しかし、慎吾は気づかずに自転車に乗って行ってしまった。
「慎吾!」
私は星の精霊さんから貰ったリップと、もう一つのコスメをポケットに入れ、自転車を走らせる。
私が住む長崎県長崎市は、坂道が多いことで有名な町。
学校への道は、上り坂と下り坂を繰り返す道のりだ。
慎吾は立ち漕ぎでスイスイと行くけど、私はすぐ漕げなくなった。
そんな私が追いつくはずもなかった。
……また行ってはいけないと言ってしまったな……。
下り坂になったところで、自転車を走らせながら思う。
慎吾が頑張ってきたこと知ってるくせに、私はなんでそんなことばかり言うのだろう。好きな人を応援できない私は、なんなのだろう?
……「行ってはいけない」ではない。「私があなたを守るから頑張って」そう言えるようになろう。だから慎吾は私が絶対守る。
そう決意をし、学校に行った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
やっと学校に着いた。私は疲れから足がもつれる。でも慎吾を探さないと……。
みんな同じユニホームを着ているけど、慎吾はすぐ見つかった。いつも見ているから、分かる。
本当は危ないからと手を引いて帰りたい。でも慎吾は、絶対ホームランを打つと言っている。だから……、それはしないと決めたんだ。
そこで私はやっと気づく。
慌てて来たから化粧をしていなかった。
……いや、それどころか服を……。
今すぐ帰りたい気持ちを抑え、草陰に隠れ、慌てて「魔法のリップ」を付ける。
すると……。
『もう、こうするしかないの……。時間が……。大丈夫、ケガさせるだけだから……。拓也くんのためだから……』
「え?」
聞こえる!幽霊?やっぱり慎吾が狙われていた!どこ?どこにいるの!
私は周りを見渡すけど、幽霊を見つけられない。やっぱり私には、霊感も魔力もないから……。
ううん、落ち込んでいる場合じゃない。どうするか考えないと……。
私はやっと、もう一つのコスメの存在を思い出す。慌ててポケットを探ると、小さなコスメが出てきた。
それはピンクのアイシャドウだった。
雑誌で見たことある!確かまぶたに塗ると、キラキラしてかわいかったのを思い出す。
私は、アイシャドウのパレットに付いていた小さな鏡を見ながら、ピンクのアイシャドウをまぶたに塗る。
そして、もう一度練習をしている野球チームを見た。
すると、ユニホームを着た子たちの中に一人甚平みたいな服を着てる女の子がいた。
その子は半透明で、小さく、異様に痩せていた。
見つけた!あの子が幽霊だ!
私は走って幽霊の女の子に近づく。
どうしてあんなに痩せているのだろう?
どうして汚れた格好しているんだろう?
階段上で何しているの?
……どうして慎吾を見て泣いているの?
とにかくやめてと頼まないと!あれ?何するの?
その幽霊の女の子は、階段を登っている慎吾の体と重なる。
これってまさか、取り憑いて……!
そう思った瞬間、慎吾の体は宙を浮く。
自ら階段下に飛び込むように見えた。
「慎吾!」
私は慌てて駆け寄ろうとするけど、間に合わない。
慎吾の体は階段下に落ちていく。
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