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8話 魔法のマニキュアと火事騒動(3)
コンコンコン。
今度は香澄ちゃんの体がドアをノックする。
「はい」
「失礼します」
「あれ、香澄?慎吾と帰ったんじゃないのか?」
先生は、香澄ちゃんがまた病室に来たことに驚く。けど、私の顔を見たら、何かを察したように笑いかける。
「君は香澄じゃないな?助けてくれて、ありがとうな」
先生はいつもの優しい笑顔で笑いかけてくれた。
そう私は、あの火事の原因を作った幽霊。今、香澄ちゃんの体を借りている。先生に謝るために……。
「先生……、ごめんなさい!」
私は必死に頭を下げる。
先生を死なせるところだった。謝って許される問題じゃなかった。
「やめてくれ!君のせいじゃないから」
そう言って、座り込んだ体をイスに座らせてくれた。
「悪い幽霊は、地獄に堕ちないといけないんだよ!だから先生、地獄に堕ちろと願って!」
私は、そう願った。
「そんなこと願う訳ないだろう?ごめんな、君の気持ち分からなくて……。『消さないで欲しかった……』、『学校の火事が怖い』、今なら気持ち分かるよ」
「え?」
「あの日、学校が火事になった日。君はその場にいたんじゃないかな?……もしそうなら、昔を思い出して怖かっただろうと思って……」
「……うん、怖かった……。机が燃えてしまって……、死んだ日を思い出してしまって……」
「そうだったのか……。辛かったな、怖かったな」
「うん。うん……」
「退院したら、君たちを弔いに行くよ。もちろん、ろうそくと線香を持ってな」
「先生、ありがとう!……私たちのこと、忘れないで……」
私は、死んで初めて、大人に甘えて泣くことができた……。
病室を出て、誰もいないところで、香澄ちゃんに話しかける。
「……ありがとう、香澄ちゃん。……私、やっぱり地獄に……」
「先生が許してくれたんだから、もうその必要はないよ。だから、学校に戻ろう」
その言葉に、私は香澄ちゃんの体から出る。
『ありがとう、学校に帰るね。私もミヤと一緒に、本来の役割に戻ると決めたから。本当にありがとう』
「本来の役割?」
『あ、ううん。なんでも』
「ねえ、もしかしてだけど、ミヤちゃんが慎吾をケガさせようとしていたのを、止めようとしてくれていた?」
『え?』
「慎吾が階段から落ちた時、空を飛んだ感覚はあったけど、普通なら間に合わなかったと思うの。あの時、時間を止めてくれたのは……?」
『そう、ごめんね。私だった。そんな中途半端なことするなら、ミヤを魔法で縛りつけても止めるべきだよね……。でも、そんなことしてもミヤは納得しないと思った。本当に、人間をケガをさせるかもしれなかった。その怖さを経験しないといけないと思って……』
「そうだったんだ……」
『本当は止めて欲しかった気持ちも分かっていたし、拓也くんを好きな気持ちも分かっていたから。……ねえ、香澄ちゃん。私も、ミヤと同じく手伝わせて欲しいの。もし、私の力が必要になったら私の名前を呼んで。私は「ヤスコ」という名前なの』
「ありがとう、やすこちゃん!」
そう言い、やすこちゃんは消えていく。学校に戻ったようだ。
慎吾には、病院の外で待ってもらっている。だから、早く行かないといけない。
でも、私は立ち止まり一人考えてしまう。
どうやら幽霊に憑依されると、体は勝手に動いて私が動かすことはできないみたい。でも、意識はそのままあって、何を話しているのかは見れるし、記憶もできるみたい。
だから、さっきの、先生とやすこちゃんの話の内容を私は聞いていた。
前に学校が火事になり、その場所にやすこちゃんがいた話を……。
私たちが通う、第一小学校。確かに、過去に火事になったことがあったらしい。
それは1945年、8月9日。私たちの住む町、長崎に原子爆弾が落ちたあの日。
……つまり、やすこちゃんは戦争で亡くなっている。
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