8話 魔法のマニキュアと火事騒動(3)

1/1
前へ
/13ページ
次へ

8話 魔法のマニキュアと火事騒動(3)

 コンコンコン。  今度は香澄ちゃんの体がドアをノックする。 「はい」 「失礼します」 「あれ、香澄?慎吾と帰ったんじゃないのか?」  先生は、香澄ちゃんがまた病室に来たことに驚く。けど、私の顔を見たら、何かを察したように笑いかける。 「君は香澄じゃないな?助けてくれて、ありがとうな」  先生はいつもの優しい笑顔で笑いかけてくれた。  そう私は、あの火事の原因を作った幽霊。今、香澄ちゃんの体を借りている。先生に謝るために……。 「先生……、ごめんなさい!」  私は必死に頭を下げる。  先生を死なせるところだった。謝って許される問題じゃなかった。 「やめてくれ!君のせいじゃないから」  そう言って、座り込んだ体をイスに座らせてくれた。 「悪い幽霊は、地獄に堕ちないといけないんだよ!だから先生、地獄に堕ちろと願って!」  私は、そう願った。 「そんなこと願う訳ないだろう?ごめんな、君の気持ち分からなくて……。『消さないで欲しかった……』、『学校の火事が怖い』、今なら気持ち分かるよ」 「え?」 「あの日、学校が火事になった日。君はその場にいたんじゃないかな?……もしそうなら、昔を思い出して怖かっただろうと思って……」 「……うん、怖かった……。机が燃えてしまって……、死んだ日を思い出してしまって……」 「そうだったのか……。辛かったな、怖かったな」 「うん。うん……」 「退院したら、君たちを(とむら)いに行くよ。もちろん、ろうそくと線香を持ってな」 「先生、ありがとう!……私たちのこと、忘れないで……」  私は、死んで初めて、大人に甘えて泣くことができた……。  病室を出て、誰もいないところで、香澄ちゃんに話しかける。 「……ありがとう、香澄ちゃん。……私、やっぱり地獄に……」 「先生が許してくれたんだから、もうその必要はないよ。だから、学校に戻ろう」  その言葉に、私は香澄ちゃんの体から出る。 『ありがとう、学校に帰るね。私もミヤと一緒に、本来の役割に戻ると決めたから。本当にありがとう』 「本来の役割?」 『あ、ううん。なんでも』 「ねえ、もしかしてだけど、ミヤちゃんが慎吾をケガさせようとしていたのを、止めようとしてくれていた?」 『え?』 「慎吾が階段から落ちた時、空を飛んだ感覚はあったけど、普通なら間に合わなかったと思うの。あの時、時間を止めてくれたのは……?」 『そう、ごめんね。私だった。そんな中途半端なことするなら、ミヤを魔法で縛りつけても止めるべきだよね……。でも、そんなことしてもミヤは納得しないと思った。本当に、人間をケガをさせるかもしれなかった。その怖さを経験しないといけないと思って……』 「そうだったんだ……」 『本当は止めて欲しかった気持ちも分かっていたし、拓也くんを好きな気持ちも分かっていたから。……ねえ、香澄ちゃん。私も、ミヤと同じく手伝わせて欲しいの。もし、私の力が必要になったら私の名前を呼んで。私は「ヤスコ」という名前なの』 「ありがとう、やすこちゃん!」  そう言い、やすこちゃんは消えていく。学校に戻ったようだ。  慎吾には、病院の外で待ってもらっている。だから、早く行かないといけない。  でも、私は立ち止まり一人考えてしまう。  どうやら幽霊に憑依されると、体は勝手に動いて私が動かすことはできないみたい。でも、意識はそのままあって、何を話しているのかは見れるし、記憶もできるみたい。  だから、さっきの、先生とやすこちゃんの話の内容を私は聞いていた。  前に学校が火事になり、その場所にやすこちゃんがいた話を……。  私たちが通う、第一小学校。確かに、過去に火事になったことがあったらしい。  それは1945年、8月9日。私たちの住む町、長崎に原子爆弾(げんしばくだん)が落ちたあの日。  ……つまり、やすこちゃんは戦争で亡くなっている。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加