第2話 乙女ゲーム通りなんてまっぴらよ

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第2話 乙女ゲーム通りなんてまっぴらよ

 乙女ゲーム『アンマリアの恋愛ダイエット大作戦』。それが私が転生した世界のようだ。そして、私はそのゲームのヒロインである『アンマリア・ファッティ』になってしまったのである。  このゲームの特徴は13歳から15歳までの3年間の学園生活の中で、攻略対象の好みの体重まで痩せて、好感度を上げて告白してハッピーエンドを迎えるというものである。ありきたりなものといえばそうなのだが、特筆するならハーレムエンドは絶対に起きないという点である。攻略対象は四人+隠しキャラ一人という少なさだが、なにせ私が転生したこのアンマリア、とても痩せにくいのである。むしろ太りやすいといった方がいいと思う。  アンマリアのゲームスタート時の体重は120kg。そこから筋トレや魔法などで痩せていくのだが、とにかく食べる誘惑が多すぎるし、油断をすればコップの水一杯ですら太る。ひたすらダイエットに打ち込まなければならないという事で、あだ名は『ダイエット令嬢』と呼ばれていた。  ただ、容姿としてはさすがはヒロイン、とても整っていたのである。言ってしまえば『きれいなデブ』である。ゲーム自体は鬼畜を極めており、とにかく不人気。なのにキャラクター自体はとても人気という不可思議な現象を巻き起こしていた。なんで売上本数が数万とかなのに、イラストは数十万と上がってるんですかね?  ではでは、なんで私がこのゲームを知っているかというと、前世はクソゲーハンターだったのだ。転生した理由は分からないが、このゲームは全クリするために結構やり込んだ。そりゃもう、攻略サイトが作れて、ゲーム内のセリフを空で言えるくらいには。  何の因果だろうか。あれだけやり込んだゲームのヒロインとして、今度は自分の身で体験してみろという事なのだろうか。まったく何の冗談だろうか、とても笑えないわね。  混濁する自分の記憶と、スーラからの証言で、現在の私の年齢は7歳だと分かった。だが、なんと驚くべき事に、この体はすでに体重が45kgある。平均的な体重の実に倍という超肥満体型なのである。そりゃ動けなくなるはずだ。現在、絶賛スーラと一緒にリハビリ中である。まずは体を動かせるようにならないと意味はない。  だが、私には何ともチートな能力があるのだ。 「お嬢様、何をなさったのですか?」 「魔法よ。魔法で両脇を支えて歩いているの」  そう、リハビリなんかでよく見る平行棒を、魔法で作り出して支えにしたのだ。ただ、空気の塊なので周りからは見えないという欠点はあるけれど。 「まあ、お嬢様って魔法がお使いになられるのですね!」  スーラがびっくり仰天と言わんばかりに驚いている。この世界って魔法って当たり前なんだよね?  そこまで驚く事だろうかと、私は公式ページの世界設定の項目を思い出してみる。 「あっ……」  やっば、重要な事を見落としていたわ。この世界、7歳じゃ魔法が使えないんだわ。8歳になって洗礼式を行って初めて魔法が使えるようになるんだったわ。これは失敗だね。  私がちらりとスーラの居た方を見ると、 「あれ、居ない……」  そこにはスーラの姿は影も形もなかった。よく見れば部屋の扉が開いている。お父様とお母様に報告するために、大慌てで出ていったわね……。仕方ないので私は、一人でリハビリを続けていた。  しばらくすると、スーラが両親を連れて戻ってきた。 「アンマリア、魔法が使えるって本当かい?」  父親のその問いに、私は支えを持ちながらぺこりと頷いた。だが、これだけの肥満体である。頷くだけでもすごく疲れる。 「ちょっと使ってみてもらっていいかしら」  母親からはお願いをされる。そこで私は、スーラを呼んで体を支えてもらいながら、両手の平から水をあふれさせてみた。そしたらば、両親ったら大げさに涙を流し始めた。 「まさか、洗礼式より前に魔法が使えるようになるとは……。これは奇跡だ」 「ええ、そうですね。文献などには記されていたようですけれど、まさかこの目で実際に見る事になるなんて……」  ああ、両親が泣き始めてしまった。  実は洗礼式より前に魔法が使えるようになると、より多くの加護が付くという話があるらしいのだ。つまりそれは、一族に繁栄をもたらす可能性を高めてくれるというわけだ。それがゆえに、ここまで両親は感動に打ち震えているというわけである。  正直、私にとってはアンマリアがゲームのヒロインなのだから、ただのヒロイン補正だと考えている。加護があったところで使いこなせなければ意味はないし、ましてやどんな加護なのかは実際に受けるまで分からないのだから。ここで喜んでいても、ただのぬか喜びで終わる可能性だってあるのよ。だから、私はとても冷静でいられた。  とにかく私は、翌年の洗礼式の日まで一生懸命リハビリを頑張った。せめて自分だけで動けるようにならなければならないのだ。 (自分で動きたいし、できるなら痩せたいわ。ここはゲームじゃなくて現実だもの。だったら自分の思うように生きたいわ。だから、13歳で体重120kgなんてごめんだわ。私はゲームのアンマリアとは違う。痩せながらじゃなくて痩せてから青春を謳歌してみせるわよ)  私はとにかく痩せてせめてぽっちゃりくらいまでのレベルに落とそうと必死に頑張った。そして、痩せる努力をしているうちに、あっという間に洗礼式の日を迎えたのである。
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