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第4話 洗礼式・後編
私は水晶に文字が浮かんでいるのを見てぎょっとした。
「どうされましたか?」
「い、いえ。何でもありません」
横に立つ司祭に声を掛けられて、私はとっさにごまかした。司祭が首を傾げている中、私は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
『演出をスキップしますか?(演出は何も発生せず終了します。洗礼結果はステータス画面でご確認下さい)
はい
いいえ』
(文章長いっ! てか、ステータス画面って何!)
まるでゲームに出てくるような選択肢が浮かんでいるのである。
(というか、洗礼式って人生一回しかない重要なイベントでしょ? なんでスキップするなんて選択肢があるのかなぁ?)
予想外の展開に、私はとにかく混乱していた。だが、これは大事なイベント、見逃すわけにはいかない。私は頭の中で念じて『いいえ』を選ぶ。
そしたらば、次の選択肢が出てきた。隙を生じぬ二段構え! なんてこったい!
『簡易演出にしますか?(この場合、属性を示す光のみが発生し、洗礼結果は秘匿されます。詳細はステータス画面でご確認下さい)
はい
いいえ』
本当に面倒くさい。しかし、私は考えた。7歳の時点で魔法が使えていた私は、多大なる恩恵を授かる可能性があると言われていた。もし大きな洗礼であれば周りからどういう目を向けられるのか分からないし、結局どう転んでも洗礼の後は大騒ぎされそうだった。だったら自分たちの中だけにしまっておいた方がいいだろうと、私はそう考えた。
というわけで、私は簡易演出にする選択肢を選んだ。
すると、神の彫像が抱える水晶が眩く光る。全部で8属性だというのになんて事だろうか、その8色すべての光が放たれたのである。やばい、私ってば全属性使いだ……。
この光景だけで会場の中は大騒ぎである。その光景にとにかく私は光にさっさと静まってくれと祈った。すると、8色だった色はしおしおとしぼんでいき、風を示す緑色だけが最後に残ってすっと消えていった。多分緑色が最後に残ったのは、リハビリのために作った空気の平行棒によるものだろう。そして、その光の収まった水晶を司祭が覗き込むとびっくり仰天していた。どれどれと私もその水晶を覗き込むと、
『Not Found』
という英単語が浮かんでいた。『見つかりませんでした』ってなんじゃそりゃ。
私が呆然と立ちすくんでいると、司祭はコホンとわざとらしい咳払いをした。次があるから早くどけという事だろうか。まぁ確かに子爵男爵は家が多いから仕方はないだろう。結局私の恩恵に関してはまったく語られる事なく、次の子へと洗礼式は進んでいった。
それにしても会場内の私を見る空気は、なんとも見世物にされている気分になる。なにせあれだけど派手に水晶が光ったのに適性も恩恵もまったく表示されなかったのだ。その不可思議な現象ゆえに、私はこうも注目を集めてしまっているのである。
父親の元に戻って来ると、私を見る父親の目がなんとも哀れんだものになっていた。そりゃ、多大なる恩恵を期待していたのだから、そうなって当然でしょうね。
「お父様、期待されていながら申し訳ございませんでした」
とりあえず謝っておく私。だが、父親は責めはしなかった。あれだけの魔法が使えるのなら、恩恵も適性もなくてもどうにかできる。そう信じているからだ。私はそんな父親の態度にちょっと心が痛んだ。
教会ではまだ洗礼式が続いている。私は残りの登場人物の事が気になるので、とにかくわがままを言ってその場に残る。となると当然、父親にも付き添ってもらったという事だ。
残っている登場キャラクターは三人。
そのうち最初に出てきたのは子爵令嬢のモモ・ハーツだ。この頃のモモは普通の体型のようだ。ゲーム中のモモは少しぽっちゃりした感じになっているので新鮮だった。属性は意外にも火。適性は文官で『女神の微笑み』とかいう恩恵があった。なるほど、それで人当たりがいいし好かれていたのかと納得がいく。
次に出てきたのは男爵家のタン・ミノレバーだ。ゲーム中では分かりやすい脳筋の男だったが、この頃はまだ普通のお坊ちゃまという感じ。属性は雷。適性はやはり家柄のせいか騎士だった。
最後に出てきたのは男爵家のサキ・テトリバーだった。ゲームでは第一王子ルートのライバルとなる令嬢だったのだが、その理由はこの洗礼式で明らかになった。属性は光と氷、適性は治癒師で恩恵は『神の愛し子』。あー、これは確かにそうなるわと思えるものだった。ただ、恩恵がそうであっても、ゲームでのサキは思いの外ワイルド。サクラとはいいコンビだったように思う。脳筋コンビ。戦闘パートではこの二人が居れば、女性のみで構成していても楽勝だった気がするわ。まぁ、私ことアンマリアは、魔法も物理も得意なチートなデブでしたからね、おほほほほほっ。
というわけで、ゲームに登場するキャラたちのうち、王子以外の洗礼を見る事ができて満足した私は、父親と一緒に馬車に乗って帰宅の途に就く。
馬車の中で私は、洗礼式の時の事を思い出して、ぼそりとこう呟いた。
「ステータス……」
すると、どうした事だろうか。私の目の前に不思議な映像が映し出されたのだった。それに気が付いた私と父親は、そこに表示されていた内容を見て大声で叫んだのだった。
「なんじゃこりゃーっ!」
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