第479話 収穫祭巡り

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第479話 収穫祭巡り

 週末を迎えて収穫祭当日。 「ふふん、屋台での立ち食いは楽しみだわ」 「結局そこなのですか、エスカは……」  うきうきワクワクの笑顔を見せるエスカに、ミズーナ王女は頭が痛くて仕方なかった。その様子を見ながら、アンマリアとサキは苦笑いを浮かべ、メチルはミズーナ王女と同じ反応をしていた。  さすがに王女や王子の婚約者たちが王都に出ていくとあって、ミズーナ王女たちの周りにはものすごい人数の護衛がついている。治安はある程度確保されているとはいえ、これだけの護衛がつく理由はもちろんエスカである。  アーサリーもだったが、ミール王国の人間は結構自由だ。そのために、勝手に行動されては困るということで、これだけ物々しい護衛がついているというわけである。 「ねえ、いくら何でも物々しすぎないかしら……」  王都を練り歩こうと意気込んでいたエスカの表情が曇る。だが、それに対してミズーナ王女たちは冷ややかだった。 「それはこちらのセリフです。一体誰のせいでこんな人数になったと思っているのですか」 「私のせいだっていうの?!」  反論しようとするエスカだったが、周りは全員頷いている。誰一人として味方はいなかった。あまりにも四面楚歌な状況に、エスカはあんぐりと口を開けている。 「そういうわけですから、エスカ王女殿下、今日はおとなしくして下さいね」  アンマリアにも釘を刺されるエスカ。 「もう、分かったわよ……」  みんなから懇願されるような事態に、エスカはすっかりへそを曲げてしまっていた。  なんとも微妙な雰囲気の一行ではあったものの、王都に出てきてしまえばそんなものはどこ吹く風。おいしそうな香りを漂わせる屋台を前に、エスカはすっかり機嫌を直していた。 「うわぁ、いい感じに焼けてるぅ」  目がしいたけである。  かつては恩恵で太りやすくなっていたアンマリアとミズーナ王女の二人。エスカのこの反応には苦笑するしかなかった。 「はあ、王女が買い食いで目を輝かせていますね。ミズーナ王女殿下、私、あの国に嫁がなきゃいけないんですか?」  目の前の状況に、メチルが困った表情をしている。ミール王国のアーサリーの結婚相手としてメチルを推したのは、何を隠そうミズーナ王女とエスカである。それがゆえに、メチルはミズーナ王女に確認を取っているのだ。 「魔王様ならあのくらいの方が制御できるでしょうが、私、アーサリー殿下を御せる気がしませんよ……」 「あはは、頑張って」  呆れるメチルに、ミズーナ王女はこのくらいしか言葉をかけることができなかった。  それぞれに思うことはあるものの、特にトラブルを起こす事もなく、順調に収穫祭を楽しむエスカ。 「あはは、食べて回るだけとはいっても、やっぱりお祭りは楽しいわね」  まったく、どれだけ食べているのやら。エスカの口周りはすっかり食べかすで汚れてしまっていた。 「もう、口に色々つけ過ぎよ。一応王女なんだから、そのくらい気にかけてほしいわね」  ミズーナ王女がハンカチを取り出して、エスカの口周りを拭ってきれいにする。急なことに驚いていたエスカだが、すぐににこにこと笑ってお礼を言っていた。  買い食いをして回るエスカに対し、控えめに食べて回るミズーナ王女とアンマリア。サキも遠慮はしているものの、エスカ並みにいろいろと食べていた。  そうやっているうちに、ミズーナ王女たちはとある地点へとやって来た。 「あら、この辺りは……」  見覚えのある建物に、思わず声が出てしまうミズーナ王女。 「ああ、ここは確か二年前に騒ぎのあった食堂ですね」  サキも懐かしそうにその場所を見ている。 「ちょっと寄っていきましょうか。あれ以降この辺りに来ることもなかったですし」 「賛成ね」  ミズーナ王女たち全員の意見が一致したので、護衛を引き連れたまま食堂へと入っていく。 「はい、いらっしゃい。って、アンマリア様たちじゃないですか」 「こんにちは、お久しぶりですね。どうですか、食堂の状況は」 「ええ、おかげさまでぼちぼちですよ。あんな騒動があったのに、以前と変わらずに使ってもらえて嬉しいもんです」  食堂の主人はにこやかに話している。  二年前、この食堂は食べれば食べるほど痩せるというとんでもなく恐ろしい呪いがかけられていた。ただ痩せればいいのだが、過剰に痩せてしまうがために問題となっていたのだ。  乙女ゲーム本来ならダイエットドーピングの薬の事件だったのが、アンマリアが痩せてしまっていたので変な風に置き換わって事件が起きてしまったのだ。  サキの聖女としての力をアンマリアたちが協力することで増幅させて呪いを解除させたというのが、この事件の顛末である。 「よし、じゃあここでも何か食べましょうか。久しぶりに来た記念よ」 「あなたは食べたいだけでしょう? あれだけ食べて、まだ食べるのかしら」 「ちゃんと運動するから平気平気」  食い意地の張ったエスカに呆れるミズーナ王女たち。  とはいえ、そのいっぱい食べるエスカの姿のおかげで、収穫祭巡りは終始穏やかな雰囲気に包まれていた。 「はははっ、いいねえ。そういう幸せそうな顔をしてもらえると、こっちも作ったかいがあるってものですよ」  食堂の主人も喜んでいたので、まあいっかと思うミズーナたちなのであった。
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