春雷

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 きっと、そこの角のパン屋さんに入っても気づかれないだろうし、この通りを行き交う人もみんなぼくらを人間の姉弟としか思わないだろうけど。コハルはアンドロイドだ。しゃべり方も、 「女刑事とはこういうものだろう」 とAIの学習結果らしい。どこから学んだのかちょっと謎なんだけど、クールなコハルの雰囲気に合ってるからいいか。  店や工場のスタッフなんかはAI搭載ロボットたちがやってるし、こうして町を歩いてるのも人とロボットと半々くらいな感じ。普通に共存してるんだけど、普通は見た目でどっちかわかるんだよね。人間に近い形で作ってるサポートタイプのロボにしたって、顔とアームはあるけどそれっぽいってだけで、ボディは大体円筒形、低くホバーして移動してる。わざわざ安定悪い二足歩行はしない。コハルほど人間そっくりなのは激レアだ。 〝すげーだろ?こいつは特別仕様で、カネもそれだけかかってるからな!〟 ぼくも最初は間違えて、タツに思い切りドヤ顔された。  警察も交番にロボット巡査を導入してるけど、ロボットは昇進できない。倫理や道徳判断の観点から規制されていて、私服捜査官以上になれるのは人間だけなんだ。高いコストがかかろうとも、見分けがつかないほどの精巧さはコハルにとっては重要なことだった。人間の振りをして警察内部に潜り込むために。  通りかかった店のショーウィンドーに、レモン色のブラウスが飾られていた。ガラスに映ったコハルがちょうど重なる。 「似合うじゃん」 「何が?」 聞こえないと思ったのに振り返るから、慌てて別の話題を探した。
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