春雷

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 コハルはいつも、黒いスーツで黒髪を頭の後ろでひとまとめにくくっていた。 「たまにはさ。あんなのは?」 すらりと伸びた黒い背中について歩きながら、ぼくの目線の高さにある黒い肩越しに、今茶髪の巻き髪を揺らしてすれ違った小花柄のワンピース姿のおねえサンを指さしてみる。 「必要ない」 切れ長の目をちらとも向けず却下された。 「女刑事とはこういうものだろう」 「そうだけど。でも今日、非番なんだろ」 「関係ないな。着る服をいちいち選ぶムダな時間が省ける。昨日も交通課の女性巡査が。ドウシヨウ明日ノ合コン着ル服ナイー!と大騒ぎしていたが」 聞いたままを再現した口真似がいかにも女子なのに、コハルはまったくの無表情なんだから、ギャップがすごすぎる。 「三日前には、クローゼット片付ケナイト服ガ入ラナイー!と言っていたんだぞ。ないはずがない」 「あー」 それはさあ、と思うんだけど、なんて言ったらいいのかな。えぇと。うぅ。 「痩せたいのなら摂取カロリーを減らせばいいのに、高カロリーの甘いものや揚げ物を喜んで頬張っている。まったく人間は無駄と矛盾だらけだ」 諦めて、ぼくは呟いた。 「人間だもの・・・」
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