10人が本棚に入れています
本棚に追加
コハルはいつも、黒いスーツで黒髪を頭の後ろでひとまとめにくくっていた。
「たまにはさ。あんなのは?」
すらりと伸びた黒い背中について歩きながら、ぼくの目線の高さにある黒い肩越しに、今茶髪の巻き髪を揺らしてすれ違った小花柄のワンピース姿のおねえサンを指さしてみる。
「必要ない」
切れ長の目をちらとも向けず却下された。
「女刑事とはこういうものだろう」
「そうだけど。でも今日、非番なんだろ」
「関係ないな。着る服をいちいち選ぶムダな時間が省ける。昨日も交通課の女性巡査が。ドウシヨウ明日ノ合コン着ル服ナイー!と大騒ぎしていたが」
聞いたままを再現した口真似がいかにも女子なのに、コハルはまったくの無表情なんだから、ギャップがすごすぎる。
「三日前には、クローゼット片付ケナイト服ガ入ラナイー!と言っていたんだぞ。ないはずがない」
「あー」
それはさあ、と思うんだけど、なんて言ったらいいのかな。えぇと。うぅ。
「痩せたいのなら摂取カロリーを減らせばいいのに、高カロリーの甘いものや揚げ物を喜んで頬張っている。まったく人間は無駄と矛盾だらけだ」
諦めて、ぼくは呟いた。
「人間だもの・・・」
最初のコメントを投稿しよう!