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嫉妬の終着点
自殺した野本 礼奈の姿が見えるようになったのは、いつからだったか。ここ数週間、いや、一ヶ月経ったかもしれない。杉崎 美莉は、鏡越しに見える礼奈の姿を睨んだ。生きた人間とは違う、生気のない土気色の顔。その不気味なものが何をするわけでもなく、ただ、美莉から数メートル離れたところに存在している。
幽霊とでもいうものだろうか。その姿を窓ガラス越しに初めて見つけた時は、驚いて腰を抜かした美莉だったが、今となってはほとんど驚かない。相談する先もなくどうしようもない状況に、不安や恐怖よりも怒りが増していた。
(何で私のところに? 親切にしていたのに! 化けてでるなら、いじめていた由衣や真尋の方に行ってよ)
美莉は学校でも評判の優等生だ。二重のぱっちりした目が華やかな美人で成績も良い才色兼備。明るい性格から友達も多く、クラスでも中心的存在と言える。反対に礼奈は陰気くさい雰囲気のせいか、クラスでも浮いた存在だった。美莉はクラス委員として、そんな礼奈には気を遣って接していた。特別仲が良いというわけではないが、中学も同じ学校だったため、付き合いは他の同級生よりも長い。
(あれ?)
洗面台の鏡越しに見える礼奈の顔が、近づいている。美莉のすぐ後ろにまで。
今までは数メートル離れていて、礼奈の表情はよく見えなかった。だが、今は。それに気づいた瞬間、美莉は声をあげてしまっていた。
「ひっ!」
後ろを振り返っても、礼奈の姿はない。窓ガラスや鏡越しにしか見えないのだ。
改めて認識した礼奈の顔は、近くで見るとまるで老婆のようだった。そして、あの表情。怒りを滲ませた、明らかに美莉に対して敵意を持っている表情。美莉は、今までなかった礼奈に対する恐怖という感情が、寒気となって一気に体中を巡っていくのを感じた。寒い時期でもないのに鳥肌が立ち、歯がガタガタと鳴る。
まだ朝の支度は終わっていない。だが、再度鏡を見る気にはなれず、美莉は髪を梳かしただけで学校へ行った。
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