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美莉は学校でも窓や鏡を見ないように過ごした。一瞬でも礼奈のあの顔が見えてしまったら、声をあげずにはいられないだろう。幸い、学校ではトイレ以外に鏡は見当たらない。トイレの鏡も、ついでに窓も見ないようにして過ごす。
でも、今日一日学校での生活を乗り切ったとして、その先は? 離れた場所にいた礼奈の姿に慣れたように、間近で見るあの恐ろしい形相にも慣れるのだろうか? そんな日はこないだろう。美莉は、姿が映るものを避け続ける未来にぞっとした。
放課後、何とか一日をやり過ごした美莉は、鞄に荷物を詰めて帰る支度をする。いつもなら嬉しいクラスメイトからの寄り道の誘いも、乗る気にはなれない。
靴を履き替えようと下駄箱まで行くと、周りに人がいなくなったタイミングで一人の少年が声を掛けて来た。
「えっと……、杉崎さん?」
D組の音無 響。一緒のクラスになったことはないが、名前は知っている。大きくて丸い目と、高校生にしては幼い容姿はそれなりに目をひく。今まで全く関わりのなかった響が美莉に何の用だろうか。
「なあに?」
美莉は幼い子供に返事をするように優しく答える。響は美莉の態度に安心したのか、おずおずと口を開いた。
「その……、後ろに見えるやつ、大丈夫?」
「え?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。響が礼奈のことを言っているのだと気づくやいなや、美莉は響の肩を掴んでいた。
「音無くん、見えるの? これ、どうにかできない? 今まで遠くにいたのが近づいてきて、ものすごく困ってるの!」
早口で響に捲し立ててしまったが仕方がない。美莉以外には見えない礼奈の姿が見える人物がようやく現れたのだ。響は美莉の勢いに驚いた様子だったが、すぐに人の良さそうな笑顔になって答えた。
「ボクじゃどうしようもできないけど、千影先生に相談しよう? きっと助けてくれるよ」
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