嫉妬の終着点

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 響の言う「千影先生」は、美莉も知っている人物だった。英語教師の千影 優(ちかげ ゆう)。美莉のクラスの英語も担当している。整った容姿と穏やかな性格で、彼に憧れる生徒は多い。 「千影先生? 何で?」 「ボクも、前に助けてもらったから。見えちゃうんだ、色々」  響はそれ以上何も言わずに、寂しそうな微笑みを向けた。美莉には疑問しかなかったが、自分ではどうすることもできない以上、彼に従うしかない。  響に連れられて英語教諭室へ向かう。「失礼します」と一声かけて入った部屋には千影しかいなかった。 「ちーちゃ……千影先生」 「おや、音無くん。誰かと一緒に来るなんて珍しいね。どうしたのかな?」  コーヒーの香りがただよう部屋の中、千影が優しい微笑みで迎えてくれる。 「王子様」と生徒たちからあだ名される華やかな容姿は、書類と薄汚れたデスクに囲まれた乱雑な部屋の中でも輝いているようだった。 用件を尋ねられ、美莉がどう返そうかと考えていると、響が切羽詰まったような声で答えた。 「あの、杉崎さんの後ろにいる野中さんを、助けてあげられませんか?」  響の言葉に、美莉は耳を疑った。礼奈を排除するのではなく、助ける? しかも、彼は美莉の後ろにいるのが礼奈だと気づいている。朝の容姿から変化がないなら、礼奈は老婆のような姿をしているはずだ。それを、響は礼奈だと認識している。彼の言葉に、美莉には驚くことしかできなかった。 「助けてあげる、か。杉崎さんは野中さんが自分に近づく理由に心当たりはある?」 「いえ、全く……。野中さんとは中学校も一緒でしたが、特に仲が良いわけではありませんでした」  美莉がそう答えると、千影の琥珀の目が礼奈のいる方を見た。一瞬だけ厳しいまなざしになったが、すぐにいつもの微笑みに戻ると、穏やかな口調で美莉に話しかける。 「彼女は君に伝えたいことがあるのかもしれないね。そうだ、野中さんが飛び降りた場所に行ってみるのはどうかな。何かヒントが見つかるかもしれないよ」
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