AI

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ぼくはいわゆる引きこもりだ。 学校にはいくけれど、最低限のことをこなした後はいつもネトゲにいりびたりだった。 小さいけどソロでも十分楽しめる世界。 ここでもだれかと行動を共にすることはなかった。 そんなぼくを助けてくれるのはエイとアイ。 二人はふたご・・・なんだと思う。 髪の先がくるんとしているほうがエイ。 まっすぐなのがアイだ。 あとはほとんどそっくりで区別がつかない。 ローブを装備しているとよく目を凝らしてみない限り どちらかを判別することはむずかしい。 リアルの話はほとんどしなかった。 ただ、反応が淡白であまり感情の起伏がなかった。 それでもうれしい時や悲しそうなときはなんとなくわかった。 「ピィ、素材収穫できたからあげる。」 エイは栽培が得意のようだ。 「わー、すごい量だな。ありがとう~。」 「ピィ、装備つくってみたゆ。」 合成スキルの高いアイはなぜか語尾に「ゆ」がつく。 そしてどういうわけか、ふたりはぼくのことを「ピィ」と呼ぶ。 「どっからでてきたんだよ。その名前w」 「ピィ、この名前好きじゃないか?」 「ん~、それほどでもないかな。」 「じゃあ、ピィでいいゆ。」 そうだね。 どのみちこのワールドももう少ししたらサービス終了だ。 どうせ終わる世界だけど、ぼくは最後まで普通に楽しみたかった。 ふたりも同じなのかなと思っていたが、特に話題にすることもなかった。 ぼくたちはやり残したクエストをこなしたり、収穫や狩りを楽しんだり 新しい装備をこしらえたりして数か月をともに過ごした。 ほかのプレイヤーといっしょになにかをすることはなかった。 まれに声をかけられることはあったが。 「おひとりですか?」 「あ、いえ。パーティ組んでます。」 「ああ、そうですか・・・。」 みんなきまっていつもぼくに話しかける。 「美女がふたりもついてるのに、小っちゃくて見えないのか?!」 よく冗談めかして言ったものだ。 「美女なのか?」 いやいや、どちらも十分かわいいから。 「ピィは美女が好きゆ?」 「ん~、そうだなあ。」 バーチャル世界は美男美女しかいないもんだよな。 「見た目より中身だ!ふたりは中身も美人だぞ。」 「そうなのか・・・。」 顔を見合わせたふたりがちょっとだけ笑ったようなきがした。 なんの駆け引きもなく、素のままでいられる空気が心地よかった。 そんな世界もいよいよ終わる時がきた。 「今日の24時までだね。」 「24時になったらどうなるゆ?」 「強制ログアウトしてもうログインできなくなる。」 「もうピィに会えなくなる?」 「そうだね。この世界自体はいれなくなっちゃうから。」 ぼくはさみしかったのだが、ふたりは実感がないのか淡々としている。 ああそうか。きっとふたりはリアルでも会ってるんだろう。 ほんとに姉妹なのかもしれない。 リアルぼっちのぼくにはちょっとうらやましかった。 「ピィ、ID教えて。」 「ん?IDあってももう連絡できないぞ。」 「それでもいい。知りたい。」 「んっとね・・・。」 なにを考えているかナゾなのはいつもと同じだ。 「これでいいかい?」 「だいじょうぶ。ありがとう。」 「ピィ、またゲームするゆ?」 「MMOやるかってこと?とくに決めてないけど。」 「ピィはわたしたちといっしょでたのしかったか?」 「そうだね。すごく楽しかったよ。」 それはまぎれもない本音だった。 「いままでで一番楽しかった。ふたりには感謝だな。」 「また会えたらいいなって思うゆ?」 「うん。チャンスがあればいいなって思う。」 でも、リアルじゃとても会えないけどね。 こんなことなら次のMMOでも探しとけばよかったかな。 「どこかで見かけたら声かけてくれ。ぼくだってわかれば、だけど。」 「それはわかる。」 「そうかあ、わかるのか。じゃあ見つけてもらおうかな。」 「わかった。」 自信ありげな言葉にちょっと期待してしまう。 コミュ障のぼくには次のワールドに誘うことも、見つける自信もなかった。 「もう時間だね。」 小窓に終了を告げるアナウンスが流れ、空には花火があがった。 「きっと見つける。また会おう。」 「ちょっと待ってるゆ。」 「うん。じゃあ、またね。」 いつものようにエモーションで手を振る。 ふたりもふだんと同じようにくるんと回ってお辞儀をした。 そして暗転・・・。 数日は天井を眺めて暮らした。 あの世界が、あのふたりと過ごした時間が思いのほか大きいものだと気づいた。 リアルで自分の存在感がまるでないことなど忘れることができた時間。 ほんとうの意味で「生きていた」のかもしれない。 アイはあのときどうしてぼくのIDを聞いたのだろう。 ほかのMMOでは使えないし、とくにメールを送る機能などもない。 「新しいのを探すかな・・・。」 しかしひとりきりの新世界はハードルが高く、なかなか踏み切れなかった。 そんなある日、思いもよらぬ転機が訪れた。 「なんだこれ?!」 パソコンの画面いっぱいに緑色のスクリーン。 「ブルスク?ハードいかれたかあ??」 画面になにかうごめいている。 数字? 縦方向、上から下に流れていく。 だんだんはっきりしてきた。 目が慣れたのか? いや、違う。 数字がだんだん集まって細い線が太くなっている。 なにかの形・・・。 点描画のようにも見える。 ゆっくり、しかし流れ続け、だんだんと形を整えていく。 しばらく見ているうちに落ち着いてきた。 なにかはわからないが、危険なものではないような気がした。 なんだか懐かしいような感じがする。 スクリーンが少しづつ小さくなっているようだ。 圧縮されていくようなそれは写真のように見えた。 写真? なんだ、これは。 点の集まりだったそれは、立体となり、普通の写真のようになって止まった。 「これは・・・。」 驚いたよりも、うれしいほうが大きかった。 それはエイとアイの写真だったのだ! 「え~~~~~~~~~っ????」 もう訳が分からなかったが、懐かしくてうれしくて、たぶん笑っていたんだと思う。 「これ、どうやったらこんなことできるんだ?」 そうだ、ふたりは言ったのだ。 「また会おう。」と。 「写真とっとくか。」 スマートフォンをだして写真を撮ろうと思った。 ん、メールがきている。 PCに気を取られて気づかなかったな。 「広告メールかな。」 表題に「ピィ」と書いてある。 「えっ!」 慌てて開いてみる。 【ピィ、見つけた。また会えたね。】 差出人は・・・・・・・。 「AI」だった。
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