自転車爆走!

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自転車爆走!

「…………せ、芹沢さんっ!君のいうことに従ったおれがバカだったよぉぉ!」 風をきって進む後ろから、山センの叫び声。 「えぇっ⁉︎なんて言ったぁ⁉︎」 上からの雨と、前から打ちつける風がすごくて聞こえない! 「だ、だからぁ、!」 なんか喋ってるけど、聞こえないから諦めることにした。 「それにしても気持ちいいね!自転車!」 坂道を思いっきり下り、キーッと断末魔の叫び声みたいな音を立てる自転車を加速させた。 私が考えたのは、村瀬家から自転車を借りて学校に向かうこと。 山センは「生徒の家から自転車借りるの⁉︎」と猛反対してたけど、私が半分押し切ってもう一回、柊花家にピンポン。 さっき送ったはずの私がびしょ濡れなのにびっくりされたけど、またなんか適当に説明して自転車を貸してもらったんだ。それも2台! なんで2台もあるのか謎だけど、ラッキー!ということにしておく。 村瀬家の斜向かいの建物内で待機してた山センは、2台押して帰ってきた私に呆然。 「………なんか芹沢さんも村瀬さん家もすごいね……」とずっと呆けてた。 カッパは、柊花母がこれまた2枚貸してくれて(なんでも持ってる村瀬家)、山センと装着。 私の家はここから学校までの距離とさらに何駅か分で超遠い。 だから、これで向かうは学校だ。嫌だけど! なんだけど、この自転車欠点がある。 ひと漕ぎするだけでギーッ!てこの世の終わりみたいな音出すし、ブレーキもきいてんのかよく分かんない。 多分、というか、絶対に壊れてる! 「マジで、お願いだから事故起こさないでね!ゆっくり!」 私の斜め後ろを走る山センの声が、ちゃんと聞こえるようになった。 距離を詰めてくれたんだな。 「大丈夫!線路伝い通りにいけば、辿り着くと思うから!」 感覚だと、多分もう三駅ぐらいは進んだ。 あと七駅! 「大丈夫?寒くない?村瀬さん宅からタオルもお借りして事前に拭いたけど……これ、おれ村瀬さんにどんな顔して会えば良いんだろ」 「普通の顔して会えば良いんじゃないですか?」 「できるかなぁ……」 ザーッと打ちつける雨は止まない。もはや濡れることに抵抗がなさすぎて、雨の中が当たり前になりつつある。 「あ!駅のホーム見えた!あと六駅!」 良い感じ!順調! 坂道を下り切り、線路伝い通りに左に曲がる。 カッパに打ちつける雨も、なんだか音が心地よくなってきたよ。 「せ、芹沢さんっ。君、どうして今日朝学校来なかったのっ?」 平坦な道に出て、山センが隣に並んだ。 ここで事情聴取とな。なんと効率の良い時間の使い方。 変に感心しながら、私はちょっと黙ってしまった。 ギーッと、進む自転車が音を立てる。 「……今日、朝電車で寝過ごしちゃって、終点でここまで来ちゃって。で、なんだか学校行くの面倒になって」 今日あったことを、全てちゃんと伝えた。 隣を並走しながら「あぁ〜」と低い声を出す山セン。 「まぁ、芹沢さんは去年のことがあるから、おれも慣れっこだけど。でも最近はちゃんと来れてたじゃん」 首を私に向けられ、私は首を下にうつむける。 ギーギーギーギーとタイヤの回る音だけが響く。 「…………昨日、親と喧嘩して。それで、朝変な時間に起きちゃって」 「親って、お父さん?」 「……いや、ママです」 色々ありすぎて昔のことのように感じられるけど、昨日の話だ。 昨日はママと喧嘩して、夜ご飯も食べなくて、朝は寝過ごして、今は自転車で爆走して。 もう、何が何やらよく分かんない。 「そっかー。お母さんと、ちゃんとお話しできたの?」 「うーん……話したというより、向こうが一方的に言ってきたというか」 何話したっけ。またいつものように、勉強して良い大学行って……って言われた気がする。 「そっか。お母さん、会社勤めの方だよね。お父さんは自宅勤務で」 スラスラと言ってのける山センに、私はギョッとする。 「なんでうちの親の仕事事情知ってるの……⁉︎」 「いやっ、始業式の時に、個人の家庭事情のこと提出してもらってるじゃん!担任なんだから知ってるよっ」 へぇ、そうなんだ。 「芹沢さんとこ、いつも保護者会とか面談とかお父さんがいらっしゃるよね。お母さん、きっと忙しいんだろうなぁって思ってたけど。昨日は、お家に帰ってきてくれたんだね」 「……まぁ、はい。とうとう、留年のことがバレちゃって」 「えっ。留年のこと、お母さんに言ってなかったの⁉︎」 「え?はい。だってママ、どうせ帰って来ないし、私のこと興味ないんで」 私のことはずっとパパに任せきりで、ママは仕事ばっかり。 私が小6の時にママは異動になって、前より安い賃金で働く会社に勤めることになった。 それから何個もバイトを掛け持ちして、働いて。 ……そんな様子は見せずに、ママはずっと働いてた。 「それは……、芹沢さん。ちゃんと学校行かなきゃダメだよ」 山センの声が固くなる。 「なんで」 「だって、お母さんは芹沢さんのために必死で働いて、君を学校に行かせてくれてるんだよ。それなのに、学校行かないのはダメだよ」 「……だったら、働かなくて良いのに。私、学校行かないんだから」 「それはできないだろうなぁ。だってお母さん、初寧さんのこときっと大切に思ってるだろうから。頑張って働いて、君を大学に進学させたいって思ってるんでしょ?」 山センのエスパー能力。なんで、分かるの? 目を開いて山センを見つめる。 山センは、ふっと笑う。 「どこの親もそうだよ。子供には、勉強して大学行って良い会社勤めて、幸せな生活をおくってほしいって思ってる」 平坦な道を走る自転車は、さっきの音が嘘のように静かに走ってる。 雨のザーザー音が、より大きく響いた。 ……ママの気持ちは分かってるって。でもさ……。 ガコンッ 「へ?」 突然、自転車がガゴッと弾んだ。いや……、弾んだというより、沈んだ? 「パ、パンクッ⁉︎」 嘘でしょ、ボロすぎない⁉︎ 「えっ、大丈夫⁉︎おれのと交換するっ?」 「だ、大丈夫っ。まだ走れる」 パンクしたのは、後ろのタイヤっぽい。前はまだ生きてるから、走れるっちゃ走れる。 「芹沢さん、多分ここに道右行ったら学校へ繋がる道だ。駅伝いじゃなくて、直接学校に向かおう」 自転車を走らせ、山センは前に出た。 「う、うんっ」 学校に行きたくないなんて言ってる場合じゃなくなった。 早く着かないと、まずい! 「わっ!」 地面の石ころを避けきれなくて、自転車が激突! 自転車は左へ傾いてバランス崩す! 「大丈夫⁉︎」 「やばいっ!」 急いでハンドルを右に切って、体勢を立て直す。 地面がヌメッてるから、危ないっ! 自転車はキーッと悲鳴をあげて、なんとか真っ直ぐになる。 「あっぶな……」 肝冷えた。 山センも、ほっと落ち着き自分の自転車に集中する。 そっちもいつ壊れるか分からないもんね……。 「あ、雨止んだ?」 山センが被ってたカッパのフードを外して空を見上げる。 つられて見上げたら、ほんとだ!止んでる! 「やったー!」 カッパをガバッと片手で脱ぎ、カゴに入れる。 「片手運転しちゃダメだよっ?もうすぐ信号だからそこで脱いで……、」 また自転車がバランスとれなくなった! 片手運転したからだ! 「危ないって言ったじゃんっ!」 「ハンドル離す前に言ってくださいよぉ!」 やばい、今度は上手くバランスとれない! ハンドルを左右に切るけど、体勢が整わない! それに、目の前に下り道が見えた。 このまま突っ込んだら、倒れる! 「うわぁぁぁっ!」 「芹沢さんっ、大丈夫⁉︎」 前から私を振り返る山センの声がするけど、 「おわっ、ちょっ、」 振り返ったせいで山センの自転車もバランスを崩した! 二人揃って、ヨロヨロしながら下り道を急降下!! 「「うわぁぁぁぁぁぁっ!」」
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