毎日登校しよう

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毎日登校しよう

それから、私は学校に毎日通うようになった。 今まで上手く順応できてたおかげで、あの騒ぎから一回も学校を休んでない。 ちょっと朝起きるの辛いなぁとか、休みたいなぁとか、甘い気持ちに負けそうになった時は柊花たちの顔を思い浮かべる。 そしたら、辛いキツイ……って思う前に家を出れてるんだ。 今まで、他の人たちはどうしてそんな毎日学校に通えてるんだろうって思ってたけど。 案外、簡単なことだったのかもしれない。 学校に行ったら、友達がいる。 嫌だなって思う勉強だって、同じことを思って頑張ってる……って思えば、乗り切れる。 そんな風に、一人じゃない。友達がいる……って思えば、毎日通うのも、いつの間にか苦じゃなくなったんだ。 ———そして、今日は。 「おはよ。自信、どう?」 相変わらず登校一番乗りの柊花は、持ってた教科書を下ろして、入ってきた私を見る。 私は、ヘラッと笑った。 「……正直に言うと、自信ない……」 黒板に書かれた、『進学特別テスト』の文字を見て、重いカバンを下ろしながらため息をついた。 そう。六月下旬。とうとう、進学テストの日だ。 「大丈夫だって!ハツ、適応能力と理解力が異常に長けてて、勉強の理解もずば抜けてたじゃん。そのおかげでこの前できなかった科目の勉強も終わったし。自信持って!」 勇気付ける柊花の笑顔に、ちょっとだけ緊張がほぐれる。 「やれるだけ、やってみる」 このテストで私の高二人生がどうなるか懸かってるんだから、そんな悠長なこと言ってられないけども! 「お、おはよっ」 後ろのドアを振り返ると、いつも来る時間よりずっと早いリマちゃん! 「おはよう!今日は早いね」 「テストの日は、いつもより早く家を出なさい……って、前から言われてたからっ」 強い瞳の色のリマちゃんは、前よりずっと明るくなった。 そして、私の前に来て笑いかけてくれた。 「一緒に、頑張ろうね」 四月の彼女の面影はどこにも感じないような、爽やかで優しい笑顔。 「……うん。一緒に、進級しよう」 私も強い瞳で返す。 「そういうさ、感動的なシーンになんで私を混ぜてくれないのさ」 間に入り込んできた柊花に、私は口を尖らせる。 「だって、柊花は確実に進級できるじゃん。私はマジでピンチなんだよ!冗談抜きで、人生かかってる!」 両手で頭を抱える。 「昨日、ちゃんと勉強したんでしょ?なら大丈夫だって」 バシバシと肩を叩かれる。 ぉぉぉ、この進級余裕人間の力の強さ!私も早くそっち側に行きたいよ! 「……ちーっす」 そこに、杉本正弥が入ってきた。 いつの間にか黒染めしてて、見た目もだいぶ落ち着いてる現在。 「あ、おはよ。調子どう?」 軽く手を上げてみると、向こうも返事で返してくる。 「……まぁまぁってところだな」 「ちゃんと勉強したの?」 柊花の問いかけに、杉本正弥は一瞬黙った。 「———した。ちゃんと、してきた」 そう答える杉本は、覚悟の顔。 これ、本気でやってきたパターンだ。 「……うわぁぁ、マジでどうしよう!また留年とかなったら、流石にメンタル死ぬ!」 「大丈夫。私、今回のテストで満点とれなかったら、また留年するから」 いきなり会話に登場したお嬢! ヘリ通学の女、今日も髪の巻き具合がオシャレだな。 「いや……流石に進級しなよ。それ、ただのアホだから」 呆れてる柊花に、そこは私も同感だ。 リマちゃんも、真面目な顔でコクコクと頷く。 「で、でも、その時は一緒によろしくねっ。一人はキツイ……」 私はヘラッと笑ってみせるけど。 「私、留年するつもりなんて、ないけど」 と、お嬢は今さっき言った言葉の真逆を言い放った。 私は目は点になる。 「え?いや、今まさに、留年するって……」 「の話ね。私、満点以外とる気ないから」 髪をバサッと払って、かっこよく言ってのける。 ……これ、ほんとに点取とれなかったらボッチ留年決定だな。 「おはようー。お、まだ五分前なのに、みんな揃ってるね。優秀優秀」 ニコニコと変わらない調子の山センに、私はなんだかホッとする。 パラパラ席に座るみんなを、山センは眺めてる。 「テストは、この後九時から。教科数多いけど、今日一日で終わらせちゃうよ。みんな、準備は大丈夫?」 みんなを見回す山センに、私はぎこちなく頷いてみせる。 頑張れ私、やるべきことは、やってきた! と、山センはふと教卓の上に置いていた袋の中身を取り出す。 「じゃあ、みんなが本領発揮できるように。おれからプレゼントだよ」 そう言って、教壇に広げたのは……。 「お守り⁉︎」 片手の手の平で収まるような、小さな可愛いお守り! 山センに手渡しされた、赤いお守り。 赤いフェルト生地に白い太い刺繍で『勝つ』と書かれてあり、裏側には『初寧』って名前も。 待って。これ、手作り⁉︎ 「すっご。山セン、器用すぎない⁉︎」 「これはモテますね」 柊花のはピンク色で、お嬢のは黄色。リマちゃんのは紫で、杉本正弥のは水色! 「みんな二文字だけど、東さんだけ『友梨香』で三文字だったから縫うの大変だったよ」 ハハハと簡単に笑う山センだけど、結構時間かかってるよね? 丁寧に縫われた縫い目に、大きく迫力のある『勝つ』の文字。 小さいお守りを五人分作った山センの苦労を、手で握り込む。 「みんななら、大丈夫だよ。五人揃って、進級してね」 強く言い切った山センに、私たち五人はみんなで頷く。 そして、私は深呼吸をして精神を統一する。 ……頑張ろう。全力でやり切って、これまでの二ヶ月間が無駄にならないようにしなきゃ。 こんなお守りまでもらって、やすやす再留年なんてしてやるもんか! 目を開いたら、みんなの覚悟の顔。 それぞれの、みんなの戦いが、始まる……! ———そして。 テストが始まる直前まで、教科書やノートで確認して。 一時間目の国語を、万全の体勢で臨んだ! そして英語、数学ときて、午後一番に化学を受け、現在世界史。 昨日頭に叩き込んできた単語を思い起こして、解答用紙に書き込む。 ……あと一分!最後まで、ねばる! キンコンカンコーン チャイムの音が響き、「やめ」の合図で一斉にシャーペンを置いた。 私は脱力して、椅子の背もたれに倒れ込む。 …………終わった……! 山センが解答用紙を回収した後、私は後ろを振り返った。 そしたら、みんなやり切った顔で、笑いかけてくれた。 「お疲れ様!これを採点して、出欠席の確認も終えたらだから……、あと三日後ぐらいに、通知表出すね」 なんだか自分までスッキリした顔の山センは、ニコニコ優しい笑みで集めたプリントをトントンと整える。 解答用紙は、思ったよりちゃんと埋まった。 合ってるって自信持って言えるところも何箇所もある。 あとは、どれだけミスなしでいけてるか……! 「やり切ったね!」 ニッコニコの笑顔な柊花は、うーんと伸びをしてリュックからスマホを取り出す。 「今日、事務所のレッスン休みにして貰ったんだよねぇ。この後、打ち上げでカラオケとか行っちゃう?」 いいね〜とみんな乗り気な感じだけど。 「ごめん、私、今日の睡眠時間三時間だから、帰って寝かせて……」 昨日は二時まで起きて勉強してたから、体が限界だ。 机にバタッと突っ伏すと、みんながザワザワする。 「えっ……、ハツが、三時間しか寝てないの⁉︎」 「それは事件レベルでやばいね」 「初寧ちゃん、大丈夫?」 肩をたたいたり揺さぶったり、心配してくれてるんだろうけど、それじゃ寝れないんだが。 「芹沢、お前早く家帰って寝ろよ。もう帰っていいんじゃねぇのか?」 パッと顔を上げて、杉本正弥を見る。 いつの間にか、山センがいなくなってる。 「でも帰りのホームルームが……」 ボソボソ呟くけど、気力が限界。意識が遠の……。 「じゃあそれまで寝てろ」 ロッカーに教材を戻しにいくところだった杉本正弥に、バシッとノートで頭をはたかれる。 その重みで、一気に睡魔が襲ってきた。 多分その秒後には、私は気が抜けたせいか眠りに落ちちゃってた。
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