お待ちかねの

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お待ちかねの

すぐに山センが来て寝れなかったけど、家に帰って爆睡して、気分スッキリな次の日。 テストは終わったけど、高2に上がれたていで授業も進めて、三日経った。 「……今日くるかな、通知表……」 登校した瞬間から、私はガタガタ震える並に緊張してる。 「今日じゃない?明日で六月最後だし、明日諸々の手続きしたら七月一日から高2あがれるもんね」 日常会話の流れのトーンで話されて、私とのテンションの差が浮き彫りだ。 「良いなぁ、柊花は明後日からSJKかー」 「ハツだって、高2なれるよ。頑張ってたじゃん」 「うーん……」 いまいち、安心感がない。 万が一、いや千が一ぐらいの可能性で、また留年ってことも……! 「でもさ……、明日で、このクラスも終わりかぁ。なんか切ないね」 柊花は、まだ自分と私しかいない教室をぐるりと見回す。 「そうだね。もう、二ヶ月経ったんだね」 四月の始業式では、これから二ヶ月毎日七時間で学校で……って絶望してたっけ。 「よく頑張ったねぇ、ハツ」 よしよしと頭を撫でられ、私はなんかむず痒い気分になる。 「な、なに急に」 子供じゃないし、と柊花の手をどかす。 「私、ハツと友達になれて良かったな」 突然何を言い出すのかと、私は思わず目を見開く。 「ハツの頑張りに、自分も頑張んなきゃなって影響受けてた部分多いから。ハツ、ありがとね」 いつ見ても綺麗な、柊花の顔。 その顔に微笑まれて、私は柊花の顔を見つめたまま「柊花……」と呟く。 「高2になったら、一緒のクラスになれるかなぁ。他クラスに編入ってことになるんでしょ?」 感情を切り替えたのか、パッと柊花の雰囲気が変わる。 周りの空気まで変わって、私は目を瞬く。 「そ……そうだね」 柊花の、一瞬で表情を変えて自分の心の内を見せないテクニック。 話題を逸らしたい時、気まずい時に、場の空気を一転できる能力。 「……柊花。私も、柊花がいて良かったって思ってるよ」 柊花が、パッと私の顔を見た。 柊花にだけ言わせて、終わりになんかにさせない。 そしたら、柊花はどんどん目を丸くさせる。 ……えっ。なんか、思ってた反応と違うような。 女優スマイルで「ありがとう」とか言うと思ってたけど。 「えっ、え……」 顔が、真っ赤。 「えっ……、なんで照れてるの?」 「いや、そうじゃ、」 ゴモゴモなんか呟いてるけど。 絶対照れてるでしょ。あの柊花が? 「なに、意外に照れ屋なの?」 ニヤッと笑うけど、顔を覗き込んだら、そうじゃないみたい。 「な…………泣いてるの?」 柊花が、綺麗な顔を真っ赤にして、号泣! 「えっ、な、なんで泣いてる⁉︎柊花⁉︎」 「だって、もう、このクラスも卒業なんだよっ、私、悲しくて無理!!」 卒業式みたいなテンションで泣く柊花。 私は、柊花の思わぬ反応に言葉が出てこない。 「え……いや、まだ六月……」 そう呟くけど、ガチで泣く柊花が微笑ましくって。可愛くて。 「私も、柊花と離れるの寂しいよっ、嫌だよー!」 柊花の泣きに巻き込まれ、私もなんか涙出てきた。 「……なに、泣いてるの?もう通知表出た?芹沢さん、留年?」 教室に入ってきたお嬢が、割と本気の顔で留年って言うから、変に心臓が跳ねた。 「違うよっ。ってか、お嬢縁起でもないこと言わないで!」 「あぁ、そう……」 じゃあなんで泣いてるんだって顔で見てくるけど、私たちは抱き合って号泣。 「……相変わらず変な二人」 お嬢はクスッと笑って、優雅にマカロンを食べ出した。 その後、リマちゃんと杉本正弥も来て、みんな揃った。 山センを待ってたら、いつもより五分ぐらい早く教室に入ってくる。 なんだなんだと思ったら、何やらいつもは持っていない茶封筒が、五枚。 …………もしや、これって。 「———テスト用紙と、通知表を渡すね」 ピリッと、教室内の空気が張った。 いつもの笑顔が消えちゃって、真面目な雰囲気の山セン。 山センが茶封筒から紙を取り出すのを、みんな黙って見てる。 「まず、東さんから」 呼ばれたお嬢は、立ち上がって教壇に向かう。 山センから茶封筒を受け取ったお嬢は、隅に寄ってその場で中身を確認している。 白い紙を5枚と、一枚小さいサイズの紙を取り出し、黙って目を走らせるお嬢。 それを、私たちは固唾を飲んで見守る。 「……」 黙って中身をしまったお嬢が、戻ってきた。 お嬢は、心配せずとも進学決定だろう。 後は、テストの結果が満点かどうか……! お嬢は、私たちを見ながら戻ってくる。 そして直前で立ち止まって、ピラっと6枚の紙を見せた。 「……全部、満点だった」 心から嬉しそうに微笑むお嬢。 「……わっ!やったね!」 「「おめでとうー!」」 私たち三人は、お嬢に飛びついて大喜び。 すごい……!本当に有言実行したんだね、お嬢!全部満点って! 「良かったねぇ。じゃあ次、泉谷さん」 「は、はい……」 名前を呼ばれたリマちゃんは、ビクビクしながら教壇へ向かう。 「大丈夫!行ってらっしゃい!」 力強く手を振るとリマちゃんは覚悟の顔つきで頷く。 「はい、どうぞ」 微笑んで渡す山センに、リマちゃんは「ありがとうございます……」と震えながら受け取る。 私は、リマちゃん……!と心の中で応援する。 緊張の面持ちで紙を見るリマちゃん。 「……あっ、あっ……!二年生、なれる……!」 声を震わせて私たちを見るリマちゃん。 「ほんとっ!?」 私はリマちゃんのもとに駆け寄り、一緒に飛び跳ねて大喜び。 「おめでとう……!」 「あ、ありがとう……!初寧ちゃんたちのおかげだよ……」 頬を赤く染め、興奮してるリマちゃん。 良かった……リマちゃん、去年のこともあるから余計に私が嬉しい。 来年のクラスは、いじめなんてなく無事に進級できますように……! リマちゃんともう一度向き合い、私たちは笑い合う。 そして、教壇に目を戻した。 「次の出席番号、杉本正弥は……」 「もう貰った。オレも進級」 「はっや!」 私たちが感動の喜びをしているうちに、もう貰ってる。 杉本正弥はニッと私に笑ってみせる。 「お前も、進級できるといいな」 「う、うん……」 急にテンションが‘冷静になった。もう、次だ……! 「はい、お待ちかねの芹沢さん。おいで」 山センに呼ばれ、私は再び心臓がドクドク鳴る。 とうとうこの時が……! 茶封筒を貰う時に山センの表情をチラッと見てみたら、肩をすくめられちゃった。 「自分の目で、結果を確認しな」 「……はい」 封筒を受け取って、私は教室の隅っこに移動した。 心配そうな顔で様子を伺ってくるみんなに「待ってね」と目で合図をし、中身を出す。 「……ふぅ」 中身を確認する前に、一回深呼吸をした。 ……大丈夫。これまで、ちゃんとやってきた。 勉強して、学校通って、悪いことはあのサボった一回ぐらいだし、神様も味方してくれる。 もう一回、深く深呼吸。 ———よし! えいやっ!と、茶封筒の中身を取り出した! 中には、テスト用紙5枚と、通知表の書かれた紙一枚。 まず、テスト結果の紙を確認する。 国語———65点 数学———51点 世界史———54点 化学———50点 英語———62点 …………これって。 最後に、通知表の紙を取り出す。 『一年D組、特別留年編成クラス、一学期成績。 国語——4、数学——3、世界史——3、化学——3、英語——4。 芹沢初寧、七月一日より』 最後の文字を、何回も何回も確認する。 「ハツ……?」 私は、パッと顔を上げた。 そして、両手の紙を高く上げる。 「しっ……、進級、できる……!」 みんな、一斉に不安げだった顔を明るくさせる。 「わっ……!」 「芹沢さん、やったね!」 「ハツ〜〜!おめでとう!!」 「やったよぉぉぉぉ!」 進級!高2!高2になれる!やったっ! 「……ぉめでとー」 超ぼそっと、杉本正弥が呟いたのも私は聞き逃さなかった。 「ありがとう、杉本!」 柊花たちに向けてた顔のまま振り返ったら、杉本正弥に目を見開かれた。 ん? 「村瀬さん、まだ自分の残ってるよ」 「あぁ、そうでした」 柊花はパタパタ駆け寄り、自分の茶封筒を受け取る。 中身を確認した柊花は、ちょっとだけ苦笑い。 「っあ〜、やっぱ数学苦手だなぁ。一問落として、98点。それ以外は、全部満点だった」 それでも、堂々のすごい結果だ。 「柊花も、おめでとう……」 自分の通知表を胸に抱えたままそう呟くと、柊花は「あったりまえじゃん」とグッドサインを作ってくれた。 「ということで。D組、全員進級おめでとう!」 パチパチと拍手をする山センに、みんなもつられて拍手。 「よっしゃ!今日こそ打ち上げ!カラオケ行くっ?」 「「行きたーい!」」 今日は、私もお金のことは気にしない! 「杉本は?」 帰り支度をしていた杉本正弥は、え、と顔をこっちに向ける。 「いや、オレも?」 「だって、クラスメイトじゃん」 私はうん、と頷く。 それを目で追う杉本正弥。目をさまよわせてる。 「山センは?来ちゃう?」 ノリのつもりで聞いたっぽい柊花だけど、山センは「うーん」と真面目に考え込む。 「じゃあ、杉本さんが行くなら行こうかなぁ」 「え」 杉本正弥は、完全に面食らった顔でフリーズ。 「……なーんて。まさか。だから、教師は生徒と一緒に遊んじゃいけないんです〜」 おどける山センに、杉本正弥はホッと肩を下げる。 それが何だかおかしくて。私はアハハっと声を立てて笑う。 その笑いが広がったみたいに、みんなで笑い合ったんだ。
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