進級

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進級

六月最終日。 一年生最後の七限の授業を終え、トイレから戻ってきたら教室内がガヤガヤしていた。 「もしかして、クラス振り分けの配信きた!?」 私はドドドッとみんなの元に駆け寄る。 「来た来たっ!えーと、」 柊花が、手持ちのスマホでパパッと操作。 みんな柊花の近くに固まって、スマホを覗き込む。 「どうなってんだろ……。クラス数あんまないから、被る子出てくると思うんだよね」 「私、初寧ちゃんと同じが良い……」 「それな!ってか、願わくばみんな一緒!」 「無理だからそれ」 アハハと笑う柊花は、お知らせメールのところをタップする。 そして、もったいぶるようにスマホの画面を手で隠した。 「えーと……、D組1番……つまり友梨香だね。発表します!」 謎の司会者ぶりを発揮して、みんなを見渡す。 端っこで、杉本正弥もちょっと柊花を気にしてる。 「留年クラス、出席番号1番、東友梨香は……A組っ!」 「A組……。三階の廊下手前か」 冷静なお嬢は、一言呟いて感想は終わりらしい。 お嬢らしいな、なんか。 「わ、私はっ?」 2番のリマちゃんは、柊花をキラッとした瞳で見つめる。 「リマちゃんはね……、B組だっ」 B組っ。お嬢と違う! お嬢とリマちゃんは、ガーンとした顔で見つめ合う。 「で、杉本は……A組だ」 杉本正弥を振り返ると、杉本は椅子をギーギーしたまま「おぅ」と軽い返事。 お嬢と、一緒! 「あれ。また一緒なんだね。高2でもよろしく」 「……おぅ」 杉本の方に近付いたお嬢に、気まずそうに視線を逸らす杉本。 お嬢が同じクラスなら、しっかり杉本のこと監視してくれるねっ。 でも、もうあいつは悪いことはしないって信じてる。 過去のトラウマも払拭して進級できたわけだし、ほんとすごいよ。 って、次は私のクラス分けだ!AかBでありますよに……! 柊花がスクロールする指を、必死に拝む。 「次、ハツね。ハツは……、C組!」 「C……!」 誰も、いない! ガーンと打ちひしがれる。 ま、まじか。やっぱり、ボッチ進学……。 「待って、私もC組!ハツと一緒!」 「えっ!」 私は柊花とバッと顔を合わせる。 「「やったーっ!」」 そして、ハイタッチ! 来年、というか明日からも柊花と一緒! 柊花と一緒なら、超心強い!ってか何より嬉しい! 「どうしよう、私だけ、みんなと別……」 真っ白な顔色になるリマちゃんを、みんなで励ます。 「大丈夫、リマちゃんっ」 「逆に、誰もいないクラスってチャンスかもよ?」 「そうそう、誰もリマちゃんが一個上なんて知らないんだから、気にせず過ごせる!」 みんなの声に、白かった顔のリマちゃんは頷く。 「た、確かに。私、高2でも頑張る……っ」 そして、カバンに付けてる山センからのお守りをそっと撫でた。 「情報が伝わるのが早いねぇ」 相変わらず、ひょこっといつの間にか入ってくる山セン。 大騒ぎの私たちを見て笑ってる。 「さ。最後のホームルームだよ」 教壇に立った山センに、みんなシンと静まり返った。 「みんな、これまで本当によく頑張ったね。そして、明日からみんな高2だね」 山センは、一番嬉しそうに私たちを見回す。 私たちも、顔を見合わせて微笑み合う。 「この二ヶ月、毎日七時間の授業をして、大変なことばっかりだったと思うけどよく頑張った。泉谷さん、杉本さん、芹沢さんなんて、ドン底の成績からここまで点数上げて、ほんとすごいよ」 私とリマちゃんは顔を見合わせてへへっと笑い、杉本はちょっと気まずそうにそっぽを向く。 「東さんと村瀬さんも、最後まで数字にこだわって励んでて素晴らしかった」 お嬢と柊花は、二人で勝気に笑う。 「……ここ最近の中でもなかなかに個性強い人たちの集まりだったけど、無事にみんな進級できて本当に良かった。みんな、これからも勉強に行事に励んで学校生活を送ってね」 私たち全員に向かって話しかける山センは、真面目な面持ち。 私は、山センの言葉を胸に刻む。 「山センも、今までありがとう!」 柊花が、思いっきり笑顔になって言った。 「そうだねぇ。山センには多大なる迷惑を色々お掛けして」 私は、随分昔のことのように思える、六月上旬のエスケープを思い出す。 あの時山センに引き止められなかったら、杉本みたいに不良生活だっだかも。 「初寧ちゃんの、多大なる迷惑って?」 「あれじゃない?去年のこととか」 「あー。学校行かないで迷惑かけたとか?」 ハテナの顔をする三人に、私はやばっと口をつぐむ。 あのエスケープのこと、三人には言ってないんだったっ。 チラッと山センの顔を見ると、彼は含みのある笑みを浮かべてる。 それを見た杉本が、フンッと鼻で笑った。えっ、何か勘付いたか!? 「杉本さんも、立派な黒染め男子になって嬉しいよ。もう金髪しないの?似合ってたのに」 いきなり自分の話題になって、目をむく杉本。 山センに茶化されて、顔をぶすっとさせて「もうしねぇよ」と苦く呟いた。 そんな杉本を見て、私はふふっと笑う。 あいつも、四月に比べてほんと成長したよなー。 「ね、みんなで写真撮影でもしない?」 ワクワクとスマホを取り出す柊花に、みんながわっと湧いた。 「それ良いね、最後の記念にっ」 「なんか卒業するみたいだね?」 「言うなれば、留年からの卒業だね」 ガヤガヤ動き出す私たち(杉本も!)に、山センもニコニコ頷きながら横にずれる。 「良いねぇ。おれが撮ってあげるよ」 「何言ってんの、山センも入るんだよ」 「おれも⁉︎でもどうやってシャッター……」 「タイマーセットするに決まってんじゃん!っていうか自撮りね!」 思考が古いねぇ〜とみんなで笑い合いながら、腕の長い柊花がスマホを向ける。 「あ。みんなであのお守り持って撮らない?山センがくれたやつ!」 私の案に、みんな「いいね!」とカバンに付けてるお守りを取りに行く。 「え、お嬢も付けてたんだ!?」 「うん。今日の牡羊座のラッキーカラー、ピンクだったから」 そう言って、ピンク色のお守りを見せる。 おおお、今日の牡羊座のラッキーカラーをピンクにした神様、どうもありがとう……! 私は見えない神に向かってお礼をする。 「流石に、杉本は持ってないだろうから持ってる風に……」 そう言ってチラッと見たら、 「「持ってる!」」 柊花と声が被った。 手に、ちゃんと水色のお守り! まじか、まさか毎日付けてきてるの!? 「嬉しいなぁ。杉本さんも付けてくれてるんだ。杉本さん、筆箱もお弁当ケースも水色だからさ、好きな色なのかなぁって。おれの予想が当たったね」 嬉しそうな山センに、杉本は図星をくらったらしく黙ってる。 山センの観察眼、すごいなぁ。 「理茉ちゃんもちゃんと持ってるし、じゃあ、タイマーセット!あと十秒後ね」 ピッとスマホを押した柊花は、前髪を整える。 スマホの画角に、柊花と私とリマちゃんが前の方に映ってて、杉本とお嬢はちょっと引いたところに。山センは、顔が半分見切れてるけど。 「笑顔って、どうやって作るんだっけな、」 あと七秒!ってところで、杉本が後ろでボソッと呟いた。 「笑顔?これまでの楽しかったこと思い浮かべれば簡単でしょ」 ニッと笑った柊花。 「杉本、ハツのこと散々からかってたもんねぇ」 「あぁ。芹沢の情けねぇ姿思い出したら笑えてきたわ」 「コラァ!」 グリンっと首を後ろに向けると、久しぶりに見た挑発する笑み。 そんな杉本の顔すら懐かしくて、私はニッと自分も勝気に笑う。 「ほら、もう時間ないよ、3、2……」 柊花のカウントダウン。 私は、これまでの大変だったけどすっごく楽しかった日々を浮かべた。 スマホの画面に映るみんなは、全員誇らしげな顔。 普通の青春とはちょっと違う、色々あった二ヶ月間。 頑張った自分へのご褒美のように、最高な仲間と出会えた。 頑張って、毎日を過ごしてきて良かったよ。 私は、心から笑顔になって。 カシャッとスマホのシャッターが鳴った時、きっと最高の笑顔で写れたと思う。
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