初日から衝撃の連続

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初日から衝撃の連続

桜舞い散る、四月。 とうとう新学期の日を迎えてしまった。 途中から一緒の道を歩く生徒たちは、ニコニコと楽しそう。 その中で孤立してる私は、誰とも話すことなく教室へと向かった。 「……あ〜〜疲れた!!」 教室へ着くなり、私は近くの椅子を引いて座り込む。 「ハツ、お疲れー。まだ学校来ただけだけど」 既に来ていた柊花が、私の方に歩いてくる。 「今日、パパが会社の出勤日だったから電車乗って歩いてきたよぉ。一人で歩いてると、こんな遠かった⁉︎って思うほど遠かった」 「でも来たの偉いじゃん」 なんか柊花に褒められて、私はちょっとドヤッとする。 「あれ、お嬢は?」 「お嬢って、友梨香のこと?まだ来てないけど」 「いるけど」 柊花と後ろを振り返ると、相変わらずふわふわカールの東友梨香ことお嬢が立っていた。 「へー、私の乗った一本後の電車から遅延してたのに。友梨香は間に合ったんだ」 ちょっと目を見開いた柊花に、お嬢は肩の髪を払った。 「だって私、ヘリ通学だもん」 ……今、なんて言った?ヘリ?私、寝ぼけてるのかな。それとも慣れない学校に来たせいで幻聴聞こえてる? 「ヘリか……。さすが、お嬢様は違うね」 理解して頷いている柊花に、私は、自分が想像してるも幻聴ではなく現実なんんだと悟った。 「な、なんで⁉︎ヘリって、そんな遠いところから来てんの⁉︎」 「いや、住んでるのは新宿区」 「うちの学校から近っ!」 電車で二駅ぐらいじゃん!どの距離でヘリ使ってんの! その時、ガラッとドアが開いた。 「……?」 音のした方に首を向けて、私は固まった。 金髪に染めた髪に焼けた茶色い肌、着崩した制服にイカつい図体。 極め付けに、口で膨らませた風船ガムをパアンッと割る。 「…………まともな女いねぇな」 そいつは、一言そう呟いて一番後ろの端っこの席にガタンッと座った。 「えっえっ、漫画でしか見たことないレベルのガチヤンキー……」 なんだアイツ⁉︎この教室に入ってきたってことは、クラスメイトなの⁉︎ 「杉本正弥(すぎもとまさや)じゃん。超不良のやつ」 柊花が、その杉本正弥ってやつを眺めて言った。 やっぱり不良。うん。見た目から分かってたけども。 「やっぱ学年上がれなかったかぁ。まー、学力の問題でしょ。あ、同じ理由で進級できなかった人いて良かったね、ハツ」 柊花が、ニカッと笑って私の肩をポンポンたたいた。 今の言葉、悪気無しで言ってるんだとしたら空気読めない天才だよ。 私は、微笑みに亀裂をいれながら柊花を見つめる。 「そしたら、クラスメイトはあと一人。なかなか来ないね」 お嬢が、杉本正弥を見向きもせずに顎に手を当てて首を傾げる。 ま、まさかのアイツをスルー。度胸ありすぎでしょ。 椅子の二本足を浮かせてギーギーしながら、窓の外を見ている杉本正弥。 その横顔から、不機嫌オーラをビシバシ感じる。 危険な予感がするから、あいつとは関わらないようにしよう……。 私は、杉本正弥からそっと視線を外す。 「おはようございまーす」 呑気な声でニコニコしながら、山センが前の扉をガラッと開けて教室に入ってきた。 なんかすごい量の紙束を抱えてる。 「はい、これ課題ね。一人一束、みんな取ってってー」 デンッ!と教卓に乗っけてまた忙しそうに教室を出ていく山セン。 その置いていった課題の量が、量が……! 取りに行って両手で持ったら、重い!もはや鈍器! のしかかってくる重さに意識が遠のきそうだ……。 柊花を見ると、何かプリント一枚を熱心に見つめてる。時間割? プリントを漁ると、課題の山から時間割のプリントも出てきた。 私も時間割をを眺めていた私は、あることに気がついた。 「……えっ。毎日七時間授業?」 七時間授業って、え、七時間? 昼食べて、まだあと三時間あるってこと⁉︎嘘でしょ⁉︎ 去年は、週一回の木曜の七限の日は毎日休んでたから、七限経験したことない! 「そんなの、スイーツ食べてればあっという間」 チラッと私を見たお嬢が、なんだかフワッフワの高級そうなポーチから箱を取り出した。 「これ、トリュフチョコ。お好きに食べて」 トリュフチョコを持参⁉︎ 箱の中にはコロッとした見た目に美味しそうな色のココアパウダー! 私は七限の悲劇を頭から追い出して、お嬢の席に近付く。 「二人とも、好きなだけどうぞ」 柊花も私も、チョコを一つつまんで口に入れる。 「「美味しい!」」 柊花と声が被った。 濃厚なチョコが、超美味しい! 「良かった。ここ、私の御用達の店なの。フランスに本店があるから、週末にでも行ってみて」 ニコッと笑うお嬢に、私はアハハと笑う。 フランスって、週末に行くとこだっけ? 「…………甘ったるい匂いさせんなよ」 その時、後ろの方からトゲのある声が響いた。 揃って首を向けると、杉本正弥だ。 細い目をいっそう鋭くさせて、私たちを睨んでる。 お、おお。ヤンキーが怒ってる……。 「もしかして、あなたも食べたかった?」 のんびりした声で、お嬢がタッパーを持って立ち上がった。 私は、サーッと青くなる。 お嬢!それ、多分違う! 私は必死にお嬢のスカートの裾を持って止める。 「ごめんごめん。片付けるね」 その横で、空気をよんだ柊花がお嬢からタッパーを取ってお嬢のカバンにしまう。 「……ったく、これだから女は」 杉本正弥は、まだトゲのある口調で舌打ちまで打って、視線を外した。 私はその様子を不快な気分で見つめて、ちょっとため息をつく。 ……あいつ、いつもあんな感じなの? クラスメイトにあーゆーツンツントゲトゲしてるヤツがいると、雰囲気悪くて嫌なんだけど……。 「ちょっ、お菓子はしまう!ダメダメっ」 再度教室に入ってきた山センの慌てた声に、まだ手にチョコを持っていたお嬢は「給食までまだ時間ありますけど」と冷静に不満を述べてから口に放り込んだ。 「今から小テストするからさ、ほら、みんなも他の物しまって」 「小テスト⁉︎」 聞いてない! 目で訴えると、山センは「言ってないもん」という顔をし、新学期から腹立つぐらいのエスパーぶりを発揮した。 「村山さん、やっぱり満点だったね」 「いい加減覚えてよ、村瀬だって。ってか友梨香も満点じゃん」 「まあ、当たり前だけどね」 「簡単だったしねぇ」 すぐ側から聞こえる会話を耳に挟みながら、私は人生で初めて感じるようなバツの悪さを感じていた。 山センの丸つけを終えて、戻ってきたプリントを真上から覗き込み、思考停止。 「ハツは?」 柊花がこっちを見る気配。 私は、とっさにプリントを手で隠した。 「うん。問題ないよ」 「いや、問題ないわけないよね」 教壇から、頬づえをついてる山センの声が飛んできた。 ちょっ、黙っててよ山セン! 私と以心伝心し合える山セン(なんも嬉しくない)は、肩をすくめて教室から出て行った。 それを見送った柊花は、ニッと悪い顔でプリントを覗き込もうとする。 「見せて!」 「嫌だ!」 必死に抵抗する私と、素早い動きで覗き込もうとする柊花。 「あ、芹沢さん。廊下にお父さんが」 「はっ?」 お父さん⁉︎お嬢の言う廊下にバッと首を向けるけど誰もいない。……って。 「やられた!」 すごい古典的な引っかけに引っかかった!! そして興味津々にプリントを覗き込んできた二人は、覗き込んだまま停止する。 ———0点! 「……うん」 「想像を超えてきたね……」 「はい……」 私はなんと言っていいか分からず、ただただ首をうつむける。 今までかろうじて1点2点は取れてたけど、0点は人生初……。 取れそうなぐらい首を落とす私。 と、その後ろを乱暴な足音で杉本正弥が通りすぎていく。 後ろ通られるだけで怖いな……。 「あ、杉本はどうだったの?」 柊花が、話しかけた⁉︎私はギョッと顔を上げる。 「ア?」 そしたら杉本正弥は、足を止めてガラの悪い声で柊花に威嚇。 ほら、放っておいた方が良いって!! 「テメェには関係ねぇだろ」 「良いじゃん、クラスメイトなんだし」 「知らねぇし」 鋭い眼光がますますキツくなっていく杉本正弥にも、柊花はひるまない。 「そんなに言いたくない?まさかハツと同じ0点だったり」 「…………アァ?」 一層、杉本正弥の声が低くなった。 何か殺気のようなものを感じて、私はブルッと鳥肌が立つ。 「しゅ、柊花、挑発するのやめなって」 私は慌てて柊花を止めるけど、柊花はニコニコしたまま。 「大丈夫大丈夫」 余裕そうな柊花に、逆に私の肝が冷える。 相手はヤンキーだよ⁉︎殴りかかられたらどうするの⁉︎ 「まともに勉強しなかったとか?高校生になって、ノー勉はキツイって」 あからさまな挑発を仕掛ける柊花。 嫌な予感に、私は体の芯が凍った。 「……おい。お前、ふざけんのも大概にしろよ!!」 やっぱり、杉本正弥が大声を張り上げた! そして、ズカズカと距離を縮めて柊花の目の前に。 何をするのかと思ったら、腕を振り上げてる。 …………えぇぇぇ⁉︎腕を振り上げてる⁉︎ ってか柊花、殴られる! 「柊花っ!」 叫んだ私は、助けなきゃなのに思わず目をつぶってしまった。 ……が。 「ウッ」 声を上げたのは、杉本正弥の方だった。 何が起こったのかと恐る恐る目を開けると、杉本正弥が両腕を机についている。 「……チッ、お前!」 もう一回腕を振り上げた杉本正弥に、柊花はサッと避けて今度は後ろから杉本正弥の手首をひねりあげてる! 「イテッ!」 情けない声を上げた杉本正弥に、柊花は後ろからニコッと微笑む。 「どうする?まだやる?」 ギギギッと力をこめた柊花に、杉本正弥は「分かったから離せっ!」と声を出した。 パッと手を離す柊花に、杉本正弥はヨロヨロと席へ戻っていく。 私は(多分お嬢も)それを唖然と見つめていた。 「どう?私、カッコよかった?」 ドヤってる柊花に、私は目を丸くする。 「……柊花、元ヤン?」 「違うわ!」 キレの良いツッコみが返ってきた。 「私、役で不良少女やったことあるんだよね。その時にやったケンカの仕方とか、身に入ってるんだ」 ニカッと笑う柊花に、私はへぇ……!と納得する。 「じゃあ、柊花がいたら安全だね」 「うんっ!これから、いくらでも相手しますからね」 柊花は杉本正弥に笑いかけた。杉本正弥は、背けた顔のまま黙りこくっている。 あの杉本正弥を黙らせるって、柊花やばいな。 というか、クラスメイトに殴りかかって来るヤンキーがいるって、そっちもヤバくない?留年の前に怪我して退学とか嫌だよ⁉︎ 私は、とんでもない衝撃的な幕開けを感じた。
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