新しい毎日

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新しい毎日

「ぁぁぁぁ、疲れた……」 怒涛の一日を終え家に帰り着いた私は、あまりの疲労にベッドに倒れ込んだ。 早速の七限、まじで最後の方は睡魔で意識飛ぶし授業聞くのも疲れるし、無理!! これが毎日って……。拷問か? 帰りの電車は、人にもみくちゃにされながら気を張って帰ってきたけど。 家に着いた途端、一日の疲れがドッときた。 これ……毎日続けたら、明後日あたりに死ぬかもな。 カバンの中を開けて、スマホを取り出す。 そしたら柊花から「お疲れー。課題ちゃんとやるんだよ」とまるで、親のようなメールがきてた。 あ……そういえば、数学から課題出てたな。明日まで!って。 今から課題!? 私は嘘でしょぉぉとベッドに体を沈めたまま動けない。 今すぐにでも寝たい。 そういえば、昨日のこの時間は昼寝してたなって思い出した。 これから、夕方の昼寝もできなくなるのか……。 絶望的な予感をさせながら、私はベッドから這いつくばって床に降りた。 そして、夜。夜ご飯食べてお風呂上がったら柊花からの追いメールがきてて課題をやらざるを得ない状況になったんだけど。 「『座標が(3,2)と(2,5)の時の、直線の方程式を求めよ』って。何言ってんの?」 分かんない問題は飛ばして、どんどん次の問題を解こうとしたら、ほとんど空白のまま一ページが終わってしまった。 ……やばいのは、分かってる。 学校に行かなくて出席数が足りないのもそうだけど、私は明らかに学力が足りない。 中学からまともに学校行ってないし、基礎の基礎からできてない。 今日の授業だってまともについていなくて、ほぼ聞き流してた。 柊花もお嬢も勉強できるから、余計に自分のバカさが身に染みる。 だけど今から頑張ったところで、二ヶ月で高一の復習を終えるって……。 無理だよ。 私が中学三年間と高一の去年で捨ててきた分の勉強量を、二ヶ月でなんて。 そんなの超人か天才しか無理でしょ。 せっかく少しは勉強しなきゃって気になってたのに、気力が失せた。 ベッドに寝っ転がって、ため息をつく。スマホを見る気力すらない。 どうせ明日学校に行ったって、授業で分かんない問題を飛ばしてたら五十分間暇なだけ。 できないって分かってることを、わざわざ自覚しに学校に行くなんてしたくない。 そもそも柊花もお嬢も勉強できるんだし、置いてけぼりなのは私だけだ。(杉本正弥は置いといて) ……だから、学校なんか行ってもつまらないんだよ。 私はベッドにうつ伏せになって、枕にほっぺたをうずめる。 そしたら、強烈な睡魔に襲われた。 久しぶりにしっかり授業受けて、初めて七時間授業を経験して、普通の高校生!を今日経験した。 今までの私に比べたら、上出来じゃない? 頑張りすぎると体に悪いし、明日は休もう。今日の私は、頑張った! 私はそうやって自分を正当化して、眠りについた。 「初寧〜。朝だよ〜。起きて〜」 ぼんやりとした耳に響いた、リビングからのパパの声。 ……朝? 私は寝返りを打って、あくびをする。 まだ眠い……。体も動かないし、今日は学校に行かないんだ。 起きる必要はない。 「初寧ぇ……。起きてよ〜。パパ、学校まで送ってくからさ」 ドアの向こうで、パパの声がする。 私は咳払いをして、なんとか声を出す。 「きょう、いかない」 「ええっ⁉︎なんでっ⁉︎」 ドアの外からパパのひっくり返った声。 なんでって……。 「行きたくないから」 掛け布団を頭までかぶって、目を閉じる。 いつも朝声かけてくることなんてなかったのに、なんで今日に限って。 「この前、パパと約束したじゃんっ。毎日学校行こうって」 「……したけど」 今日は、行きたくないんだって。 体が重たくて動かない。 去年学校に行かなかった時の、いつものパターンだ。 一応、朝は行かなきゃって思うけど、思うけど体が動かない。 いつものなんだから、放っておいてよ。 私は、やさぐれた気持ちで再び寝返りをうつ。 「初寧……」 だんだん小さく、切なくなっていくパパの声。 私は頭まで被った掛け布団をさらに引き寄せ、ジッと固まっていた。 「…………で、お父さんのことが可哀想だから学校来たってわけね」 納得した様子の柊花に、私はハァァァと盛大なため息をつく。 「もう、そんなやり方で行かせるなんてひどいと思わない⁉︎」 ホームルームを終えた、朝の学校の教室。 あの後パパの根気に私が負けて、学校まで送ってもらったんだ。 今日は、学校来るつもりなかったのに!七限、嫌だよー! 「芹沢さんのお父様、頭がいいのね」 負のオーラ満載の私と対照に、お嬢は高そうなキャンディを優雅に頬張ってるよ。 「はぁ……。これから、毎日こうやって学校か……」 べしゃっと机の上につぶれる。 杉本正弥は、今日欠席ってさっき山セン言ってたし。(昨日の負けが悔しかったのかな) 堂々と休めるあいつが羨ましいよ! まだ一週間は始まったばっかりなのに、もう疲労困憊で死にそうだ。 「ねぇ。二人は、学校行くの嫌だなぁって思わないの?」 顔だけ上げて聞いてみると、二人は顔を見合わせた。 「嫌っていうか……。もう慣れたからなんとも思わないかも?」 「私も。行くもんだって体が分かってるからそんなに嫌って思ったことない」 いかにもお手本高校生みたいなコメントが返ってきて、なんだか聞いたことを後悔した。 「えー……。慣れって、慣れるの?」 まだ登校記録二日の私だけど、慣れる気配がしない。 小学生の時、どんな感情で通ってたっけ?多分なんとも思ってなかったんだろうなぁ。 「慣れる慣れる。一週間通えば慣れるんじゃない?」 「一週間……」 柊花の言う数字が、なんだかすごく遠く感じる。 そこまでちゃんと辿り着けるのか、かなり怪しいな……。 悶々と考えていると、お嬢が「あとは、」と考える仕草。 「学校に行く動機を作ってみるとか」 「「動機?」」 私だけじゃなく、柊花も一緒にお嬢を見上げた。 「そう。たとえば、学校の帰りにあの店に寄る……って決めるとか。そしたら、朝からちょっとは学校行く気にならない?」 淡々とした顔で提案してくるお嬢。 でもそれ……、たしかに良いかもな。 今日朝通学路を通って来た時も、行ってみたいお店とかいっぱいあった。 帰りにそこに行く!……って思って、学校来るのか。ちょっと良いかも。 「帰りに銀座のスイーツショップ寄りたいとか、ちょっと遠出で島行ってみようとか、考えるだけで楽しいでしょ?東京の島とかだったら、ここからヘリで二、三時間で行けるんだよ」 付け足しで返ってきた、お嬢流の放課後プランの内容。 ちょっと理解が追いつかなくて、どう返事をしたら良いか分からない。 「じゃあ、今度三人で放課後に出掛けようよ。私の仕事がオフの日に限るけど、今は留年してるって事務所に伝えてあるから仕事減らして貰ってるんだよね。空いてる日多いよ!」 ワクワクと提案する柊花に、私はガバッと体を起こした。 「え、行きたい!私、そしたら頑張って学校来れるかも」 放課後に遊ぶ約束してたら、絶対学校来なきゃ!って思うもんね。 そしたら、なんとなく朝から陽のテンションで来れる気がする。 「私も行きたいな。どこのレストランのディナーに行くの?」 「友梨香は、庶民の高校生の遊び方を覚えなさい」 柊花に厳しいツッコミを入れられたお嬢は、理解してない顔。 「じゃあ、村瀬さんたちはどこに行くの?」 「どこってショッピングモールとか近くのファミレスとか」 「へぇ……。行ったことない」 「ガチで。いつも何食べてんの」 なんだか面白い会話をしている二人を、私は机に肘をついて眺める。 女優の顔しか知らなかったけど、意外とサバサバしててカッコいい柊花。 常人からは逸脱した、自慢気無しの純粋金持ちお嬢様な友梨香。 学校に行ってなきゃ出会えなかった、超個性の強い二人だ。 まぁ、去年無理して学校に行ってつまんない一日を過ごしてたよりは、ずっとずっと楽しい?かも……な。
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