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ハッピー・フライデー
今週、最後の日。なんとかここまできた。
今日来たら明日から休みだー!
と、気合いを入れて登校(パパに送ってもらったけど)した朝。
「おはようー!」
教室のドアをガラッと開けて中に入る。
「おはよ。今日は元気だね」
「うんっ。だって、明日から休日で休みだもんねぇ」
カバンを机の横にかけ、柊花にニコニコと笑いかける。
「今までは一週間のうちに何回学校休んだ?って感じでさ、毎日が連休みたいな感じだったから休日にありがたさが感じられなかったけど。今は休みが恋しいよ!一週間頑張ったご褒美って感じで、明日が超楽しみ!」
一週間毎日学校に来るなんて、ヘタしたら小学校以来かもしれないんだよね。
体力も気力も昨日まで結構限界だったけど、なんか今日は回復しちゃった!
恐るべし、金曜日のパワー。
「一週間学校来たら、慣れるかもって話してたけど、慣れそう?」
「それは分かんない」
月曜にどうなってるのか、全く想像がつかないよ。
「そういえば、お嬢はまだ来ないの?」
もう八時過ぎてるのに、まだお嬢がいない。
「ああ。友梨香はヘリ通学だからさ。五分前ぐらいじゃないっけ?いつも来るの」
ヘリ通学、というパワーワードよ。
まさに、東友梨香という名前にしか似合わないワードだな。
「おはよう」
噂をすれば、お嬢!手を振る私に、お嬢は一瞬目を見開いた。
「芹沢さん、今日も来れたんだ?そしたら一週間の登校日数パーフェクトじゃない?」
「そう!そうなの!おめでとう私〜!」
シュバッと立ち上がり、一人スタンディングオベーションする。
柊花もお嬢も、私のことを気にかけてくれて嬉しいよ。
パラパラと、二人も控えめに拍手に参加してくれた。
「今日学校に来たのは正解だったよ。来週の校外学習の行く場所発表されるらしいし」
お嬢の心なしかワクワクした口調に、私は声を荒げた。
「校外学習があるのっ⁉︎」
「そりゃあるでしょ」
横で、柊花が当たり前のように言う。
「京都とか行きたいなぁ」
「国内は飽きたな。行ったことないの、ドイツとか?」
この二人、なんで学校の校外学習で、新幹線乗ったり飛行機乗ったりできると思ってるんだろう。
「おはよう〜。朝の会しまーす」
と、そこへ山センが入ってきた。
柊花とお嬢は、パラパラと席に戻っていく。
私も椅子に座り直して、前を向くと、山センと目が合った。
山センは、私を見てなぜか目を丸くしている。
ん?
「えー、出席をとりまーす。東さん、芹沢さん、村瀬さん。杉本さん……は、いないね」
後ろを見ると、杉本正弥が来ていない。
またサボり?昨日は大人しく来てたけど、まったく怠けてるなぁ。
ちゃんと一週間学校に来た私は、アイツより上位にいる気分。
まぁ、あいつがいない方が教室の空気いいし、全然問題ない。
「じゃあ。人数少ないけども、今日学校に来てくれた女子ーズのために、とっておきの情報を伝えよう」
急にニコニコし出した山セン。
……とっておきの情報って。
「今年の校外学習は———国会議事堂へ行きます〜!」
私たち三人、特に輝いていた柊花とお嬢の瞳が、一瞬にして冷め切るのが目に見えた。
「有り得ない有り得ない……。国会議事堂って、小学生が行くとこでしょ!?何で高校生が!?」
ホームルームが終わった直後から、柊花はずっとブツブツブツブツ呟いてる。
「国会議事堂って……。ダサいなぁ」
お嬢も辛辣に一言つぶやき、負のオーラをまとってる。
国会議事堂って、私も行ったことある。
空白の一体の銅像が———ってやつでしょ?
「え、良いじゃん」
私の声に、柊花とお嬢は目を丸くする。
「「どこが」」
それに、綺麗に声が被ってる。
「いや、だって学校で授業するより全然良くない?」
朝、「これから学校かぁ」って起きるよりも、「これから国会議事堂かぁ」の方が良くない?
場所がどこにしろ、学校に来て授業しないって思うだけでも、結構救いだ。
「まぁ……」
「そうだね」
二人は、眉をひそめて顔を見合わせる。分かってないでしょ。
やっぱり、芸能人&お嬢様には一般人の気持ちは分かんないのかな。
この常人じゃない二人と一緒なの、楽しいだろうけどなんだか疲れそう。
杉本正弥……は、うん。来るか分かんないけど、来たら心の疲労が増えそうだな。
あと来るか怪しいのは、もう一人のクラスメイト。
男か女かも分からない。
もし男の子だったら、杉本正弥と仲良くできんのかな。
私だったら、無理だな。
でも、杉本正弥みたいに不良の可能性もある。
これ以上、不良増えたら柊花が相手できなくなるかも。
私も、ケンカの仕方覚えるか?
……なんて思っていたけど、その日のホームルーム後、さっそく名簿入りの校外学習のしおりが配られた。
「うわぁ……。本当に国会議事堂なんだ……」
まだ認められないらしく、柊花は苦い声をあげてる。
「楽しそうじゃん!国会議事堂、小6の時行ったなぁ。懐かしいな」
ワクワクしちゃう私に、柊花とお嬢はなんだか息をついて私を見ていた。
「え、参加者名簿、杉本正弥いるじゃん」
しおりの最後の方に書いてある参加者名と付き添いの先生(付き添いは山センだけだけど)に、杉本正弥の名前があった。
「そりゃ、いるでしょ。クラスメイトなんだし」
柊花と一緒に杉本正弥の席を振り返ると、机の上にしおりがポツンと置かれていた。
「えー。来ないと思ってた」
場が荒れるから来なくて良い……という本音は、口にすると人としての何かが危ぶまれる気がするから黙っておく。
「ま、別に当日来るかは分からないしね」
「木刀持って暴れられても困るしね」
お嬢の一言があまりにも現実的に有り得そうで、思わず嫌な想像をしてしまった。
「そんなことしたら、あいつ一発退学だなぁ。行く前に手物検査しなくちゃ」
ね、と柊花を見ると、柊花はなぜか顎に手を当てて何か考えていた。
「どしたの、柊花」
ツンツンと柊花の腕をたたくと、柊花はパッと目をあげる。
「あー。なんでもない。それよりも、」
柊花が指差したのは、お嬢の下にある名前。
「もう一人のクラスメイト、女の子だったね」
女子と男子に分かれた名簿で、お嬢の下にある名前。
そこには、『泉谷理茉』と書かれていた。
「へー!この子がクラスメイトか。いずみやりま、ちゃんかな?可愛い名前」
とりあえず、不良じゃない予感にホッとする。
「リマちゃん?聞いたことないな」
「え、友梨香も聞いたことない名前なの?レアキャラだね」
レアキャラって、ゲームのキャラじゃないんだからさ。
そう柊花にツッコもうとしたけど、その表現が一番近いかもな。
「リマちゃん、校外学習来てくれるかなぁ。仲良くなりたい」
「どうかな。まだ学校に一回も来てないよね?」
「でも校外学習は五月中旬だし、まだあと一ヶ月ぐらいあるからな。まだ分かんないね」
私は、もう一度しおりに目線を落とした。
「リマちゃん……。どんな子だろうな」
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