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ヤンキーはガリ勉?
リマちゃんは、やっぱりそんなに学校に来るのが慣れないのか、今週は月曜と木曜しか来てない。
もちろん、学校に来た二日間は一緒におしゃべりしたりご飯食べたり、私たちは楽しく過ごしてる。
だけどなんか……、リマちゃんの顔を見るに、ちょっと無理してる感じはある。
あんまり無理しすぎないと良いな……。
一方私の方は、山センが毎日毎日、私のこと「すごいね!」「偉いね!」って褒めてくるから、なんだか休みにくい雰囲気になってもう4日。
なんと今日は金曜で、今週も毎日登校中!
自分の学校適応能力に、驚きっぱなしだよ。
教室にたどり着くと、柊花はいつも通り手を振ってくれ———るんじゃなくて、手元のスマホをなんか凝視していた。
「おはよ、柊花。どしたの?」
声をかけると、柊花は顔を上げて私を見る。
「あ、おはよ。ね、ちょっと聞いてよ」
そして今にも話したくて仕方がないという風に、話し始めた。
「杉本、もしかしたら秀才かもしれないんだよ」
………………?
突然何を言い出すかと思えば、どうした柊花?
「いや……。え?杉本正弥が?」
大真面目に「うん」と頷く柊花に、私は「いやいやいや」と半笑いで首を振った。
「どしたの急に。あいつ、一生ヤンキーみたいなやつだよ?それが秀才って。悪知恵選手権みたいな方?」
「違う違う。これ見てよ」
柊花が見せてきたのは、『全国中学統一模試』とやらの表。
一位から上位三十位までの、点数と名前が書かれた表だ。
そこの、五位のところ。
点数は九十八点。
「…………杉本正弥、だ」
「でしょ?」
え……。いや、信じられない。嘘でしょ?それか、
「同姓同名の杉本正弥なんじゃない?」
「私もそれは思った。だけど、これ学校で受けさせられる同学年だけの模試なんだよね。同じ学年で杉本正弥って漢字までも一緒で。そんなことある?」
眉をひそめる柊花に、私は言葉に詰まった。
……たしかに、普通に考えてそれはないかもしれない。
「で、でもさ。あの杉本正弥だよ?あいつが?全国模試で、五位?」
ここまで情報が揃ってて否定する方が難しいけど、その張本人が杉本正弥っていうのが信じられない。
登校初日に風船ガム噛んでて、常に人を威嚇して態度もガラも悪くて。
「私も信じられないけどさ……。でも私、あいつただのヤンキーには思えないんだよね」
視線をずらして、何か考えるような表情の柊花。
「……どういうこと?」
「私、前にあいつの相手したことあるじゃん?その時、あいつケンカの仕方めっちゃ下手だったんだよね。まぁ、普通に私の方が強かったのかもしれないけど。でも、兄弟ケンカみたいな殴り方で、相手に怪我させてやろうって感覚じゃなかったんだよね……」
小テストの時、杉本正弥が柊花に殴りかかった時のことだ。
確かにあいつ、すぐに柊花にやられてたけど……。
「……じゃあ、なに?本当はガリ勉ちゃんだけど、無理してヤンキーの振りしてるの?」
まさかの杉本正弥、秀才説が出てきた。
「そしたら、なんで留年してるんだろ。留年するほどガリ勉隠すバカいる?」
「それは確かにバカだね」
柊花と二人で、首をひねって考える。
その時、教室に本人が入ってきた。
相変わらず、ガラの悪そうな態度。
うわー……と、一瞬身を引く。
「本人に聞いてみる?」
だけど、何を考えてるんだか柊花がパッと首を向けた。
「はっ?いや、別に良い」
あいつには、金輪際マジで関わりたくない。
「じゃあ、私が聞いて来るっ」
えっ、マジ⁉︎柊花が颯爽と杉本正弥のところに行くのを、私は見えない柱に隠れて気配を消して見送る。
「ね、杉本」
「ア?」
うざいくらいの即答に、柊花は怯むこともなく続ける。
「あんた、中学校の時に統一模試受けた?」
「受けてない」
思いがけずキッパリと言われ、私は拍子抜けする。
えっ。聞かれて、そんなにすぐに即答できるもの?
「いや、受けてると思うけど」
「受けてねぇって」
目が鋭くギラリとし始めて、私は心の中で「柊花戻っておいで」と念じる。
だけど、狙いを定めた柊花が追求を放棄する訳がない。
「じゃあ、ここに書いてある名前は何?」
柊花が見せたのは、さっきの順位の表。
それにチラッと目線を向けた杉本正弥。
「…………知らねぇ」
何かを抑えたような、低い唸り声。
「ほら柊花っ。杉本正弥、そのテスト知らないって。別人だよ」
「ん〜?おかしいな。ま、今は良いよ。いつか教えてね」
「ハッ?いつになっても教えねぇよバカ。ってか話しかけてくんな!」
噛み付くような勢いに、私は柊花を引っ張って戻す。
「もう良いって!あいつも言ってたじゃん、別人だよ!」
「いや、絶対あいつじゃない?何隠してるんだろ」
まだ腑に落ちてないらしい柊花に、私はどうでもよくなってくる。
「なんでも良いよ……。私あいつが頭良いと思ってないし」
あのヤンキー性悪男が勉強できたって、「へー」意外のなにものの感情も湧かない。関わるのは、もうやめよって。
……っても、柊花は怖いもの知らずだからなぁ。
私が止めても、どうせあいつに突っかかっていくんだろう。
そんな未来しか見えなくて、頭を抱える。
「あいつ、意外に勉強できたんだ。じゃあハツより頭良いかもね?」
柊花がぼそっと放った言葉。
「……いやいや、な訳」
「だろうな。そこのマヌケ女よりかはできると思うぜ」
すぐに教室の左奥から、バカにした声が飛んでくる。
くそっ、アイツっ!
いつも誰の話にも参加しないくせに、なんで私の話題になると入ってくるの!
「ハァ〜?私、あんたよりはできると思うけどね!」
「どっからその根拠くるんだよ。脳みそ腐ってんのか」
「あんたこそその風貌直してから言えば?」
「それ関係ねぇだろ!」
グチグチ言い合う私たちを見ていた柊花は、ハァッとタメ息。
「私からしたら、二人ともどんぐりの背比べだよ。一緒一緒」
「「一緒にするな!」」
「仲良しか」
私は渾身の怒り顔で、杉本正弥を見る。
あいつもあいつで、盛大にバカにした顔を向けてくる。
くぅっ!むかつく!
「あんた、授業でもまともに発言しないじゃんか!」
「高校生にもなって元気にハイハイ発言するバカいるかよ」
「しないよりはマシじゃん。私、授業で当てられてもちゃんと答えてるし!あんたが答えてるの見たことないけど」
「言わねぇだけで、ちゃんと分かってるんだよオレは」
「なにその見え見えの嘘!嘘下手か!」
そんな言い合い小言ラリーが何回か続いたところで、柊花が額に手を当ててタメ息をついた。
「言い合いがマジで小学生……」
私と杉本正弥が言い合い柊花がタメ息をついてる、そんな教室の異様な光景。
に、教室に入ってきたばっかりのお嬢は立ち止まっていぶかしげな顔をしたのだった。
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