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満月の夜におちる魔法、朝焼けの光にとける魔法
キャナルさんが帰ってから、ずっと考えていた。
ダイ様が遠吠え会に参加出来ない理由を。
きっと、ダイ様は否定すると思うけれど。
だから、訊かない。
だけど、伝えた。
「私は、ダイ様が遠吠えする声を聞いてみたいです」
大きく目を見開いたダイ様が、慌てていた。
「本気で言ってる? キャナルさんがあんなこと言ったからでしょう?」
きっかけはそうだけど、私は頭を振った。
「皆さんのところへは行けないと思います。でも……私はオオカミの国に嫁ぎました」
そこまで言って、ダイ様を見ると、体を掻きはじめていた。きっとむずむずが始まってきているのだろう。それでも、心配そうにその瞳を私に向ける。
「気にしなくてもいいよ。プティラはウサギさんなんだから」
やっぱり私は頭を振った。
「ウサギだからダイ様を遠吠え会に向かわせられない、とは言われたくありません」
これは、ちょっとだけ嘘。
どうしても無理なことはあると思うし。だけど、この先もずっとこのままではいけないとは思っている。ダイ様はオオカミで、王族で、お務めがあって、だからこそのこの結婚なのだから。
それに、ダイ様が一般ウサギを護ってくれていると考えると、嬉しくなる。
自分の手を見つめる。昨日、ぎゅっとしてくれた手。ダイ様は怖くない。でも、信用されないのは、いつまでも怖がっているから。
ダイ様が今の私の現状を護ってくれているのと同じように、私もダイ様の立場を護らなくちゃならない。
「ダイ様がウサギを食べないように伝える声を聞きたいです。ちゃんと聞こえるように、お庭で一緒に聞いています。オオカミはダイ様の国の方です。だから、声くらいなら怖くないと思います」
ダイ様は少しだけ黙って、少しだけ困ったように私を見つめた後、やっと笑ってくれた。
「分かった。次の遠吠え会は絶対に出席しなくちゃならないし。そうだ、今夜は庭で一緒に遠吠えを聞こう。誰の声か知っておいた方が怖くないよね」
それから、満月が空の真上に来るまでに食事を取って、マティも一緒に仮眠を取った。ふたりでリルラさんを見送って、『明日もよろしくお願いします』と伝えた。
お家で家族が待っているリルラさんは、『頑張って下さいね』と『ご無理なさらないで下さいね』を繰り返して、お夜食のサンドイッチ入りのバスケットを二つ渡してくれた。
大きなものがダイ様で、小ぶりな方が私。
ダイ様は今度も体を掻きながら、そのバスケットを受け取る。
オオカミになる時はとてもお腹が空くのだそう。
だから、きっと、大きな方にはお肉がたっぷり入っている。小さな方にはたっぷり野菜。
「私が持って行きます」
驚いたように目を丸くするダイ様だったが、素直にバスケットを渡してくれた。
だって、オオカミになったら手は使えないでしょう? 大丈夫。これは、ダイ様の食べものだから。リルラさんが作ってくれた大事なものだから。
落としたりしないから。鼻は摘まみたくなるかもしれないけれど……。
マティがしっかり眠ったことを確認した後、薄手のマントを羽織って、廊下を歩いた。
あれだけ怖かった廊下。
半年以上かかってやっと一人で歩けるようになった。
一人で外に出るのはまだ怖い。だけど、今日はダイ様が待っていると分かっているから大丈夫。
扉を開けると、外が広がる。
銀色のオオカミが一匹、私を見つめてこう言った。
「ようこそ、ふたりきりの遠吠え会へ。どうぞこちらへ、プティラ様」
この日、私は初めてオオカミの行事に関わった。
お庭の中で満月が一番よく見える場所に行く。そして、遠吠えを聞き、ダイ様の説明を受けながら、次の遠吠え会ではダイ様の声をここで聞くんだ、そう心に決めて。
そして、これからはずっと一人。だから、ダイ様の温かいお腹に凭れて、その声を聞いた。
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