満月の夜におちる魔法、朝焼けの光にとける魔法

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 おぉおーん。おうぉおーん。  お腹の底に響く声にビクッとする。でも、これはきっと王様の声。お妃様と伯父様はオオカミ化しないので、一緒に聞いておられるそう。  それから、王位継承第一位の方から順に続いていく。  遠くからも聞こえてくる小さな遠吠え。  きっと、畏まって「承知しました」って言っているんだと思う。  オオカミのお嫁さんなら、一緒に参加していたのかもしれない。声も全部きっと覚えると思う。  私は参加が出来ないから。でも、声は覚えられるから。  十三番目に聞こえたのが、ダイ様の声。ダイ様はなんでも十三番。  僕は終わりの方だと思うけど……。ぎりぎりな場所にいるから。  そんなこと言っていたけど。  大きな声。カッコいい声。優しい声。最初は「行ってきまーす」も怖かったけど、もう全然大丈夫。  聞こえて嬉しい声。  遠くからの遠吠えも元気に「分かりましたー」って言っているんだろう。  目を瞑ってダイ様を想う。  きっと満月の光を吸い込んだ毛並みが、白銀に輝いて、とっても綺麗なんだろうな。  あんなに大きな目と大きな口だけど、とても優しいオオカミ。  すこし東の空が白み始めた頃に最後の遠吠えが終わった。  きっと「おやすみ~」の声。  私はすくっと立ち上がる。  飛んで帰ってくるから。  太陽が少しずつ昇っていく。溢れ出した陽光が地平線を白にする。白い光が、空と大地が交わる頃に真っ赤に染まり、滲み出て、世界に色を与えていく。  魔法のような夜が終わり、滲み広がっていくようにして、太陽の色に温められた、満月の魔法が、空に溶けていく。  朝。  爪が大地を蹴る音がする。門扉を押し開く音に、荒い息づかい。  真っ赤な光を受けて、橙色に輝くダイ様が、ふわりと朝の風に吹かれる。私を見つけて、子どものように無邪気に駆けてくる。私はそっとポーチから下りて、佇まいを整える。ほんとうに飛んで帰ってきたダイ様の息が、冷たい空気に白く湯気立つ。 「ただいま」 「おかえりなさいませ」 お辞儀の後に見つめたダイ様は、もうオオカミの姿ではない。銀灰色の髪に、金色の瞳。同じ容。優しく微笑むダイ様が、私をその腕に包み込み、「ただいま」の言葉をもう一度、落とした。  大好きな匂い。太陽の匂い。温かい香り。 その温かさにもっと近づきたくなる。ダイ様の胸に頭を預けると、名前を呼ばれた。太陽と同じダイ様の瞳が、私を見ていた。  そして、……。  見上げた私に、ダイ様の口が、そっと下りてきて。  確かにある優しさに、触れて。  解けてなくなる魔法じゃなくて。  大丈夫。怖くない。  私はオオカミの国で、大好きなダイ様のお妃様に、なるんだから。
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