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エピローグ「おとぎ話のはじまり」
子どもが、母親に添い寝をされて、オオカミの国に伝わるお話を聞いていました。
「ママ、お姫様は幸せになったの?」
「えぇ、とっても」
それは、とても昔の話。
オオカミの国に嫁いだウサギのお姫様のお話。
ウサギのお姫様がオオカミの国で幸せに暮らしたお話。
もう名前も伝わっていないような、そんな大昔。オオカミの国にひとりのウサギのお姫様が嫁いできました。
ウサギのお姫様は、はじめは、とても怖がりで、与えられたお屋敷の中から出てきませんでした。
だけど、頑張り屋のお姫様は、オオカミの国のことをたくさん知るようになりました。オオカミは、そんなに怖くないと思うようになりました。
食べるものは違うけれど、頭にある耳の形は違うけれど、お姫様に関わるオオカミは、みんなお姫様に優しかったからです。
いつしか、ウサギのお姫様もオオカミのことを大切に思えるようになりました。
ウサギの国で、怯えている国民達に、伝えたいと思うようになりました。
「ウサギはウサギ、オオカミはオオカミ。でもね、同じように相手を大切に思えるものみたい」
ウサギのお姫様が言った言葉です。
そして、続けます。
「生まれ変わった大切な誰かに出会うために、人化しているの。だから、何も怖がらなくてもいいの」
ウサギのお姫様が生きた時代、獣の性質をたくさん残したままの状態が続いていた時代。
草食動物は食べられることを想定し、多産。年に何度も出産していました。だけど、ウサギのまま過ごすもの、人化するものがおりました。
そして、安全を知り、子が無事に育つという日々が何年も何年も続くと、人化はもっと人に近づき、一般はどんどん獣に近づいていきました。
それは、オオカミの国も同じでした。人化と一般は完全に分かれたのです。
でも
「ママ、そろそろ時間?」
「あら、またこんな時間になって」
母親は苦笑いをして、子どもは悪戯が成功したように笑いました。
満月がちょうど夜空のまんなかに上がる頃。
今も昔もずっと、みんなの幸せを願うオオカミの遠吠えが、遠いどこかから聞こえてくるのです。
その声に答えるようにして、子どもが窓に向かって叫びます。
「みんな仲良くしてるよー」
満月の白い光が、夜空を照らし、大切な『あなた』へ続く道を、優しく導いていました。
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