『サイとダイはよく似ている』

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 そろそろ妙齢となったサイにもたくさんの縁談が舞い込むようになっていた。一応、序列は3番目。次代を担うことを許されている順位ではある。  しかし、誰とも上手くいかなかった。  王族同士なら大丈夫なのだが、力の加減が難しく、手を握るだけで相手を骨折させていることがあったのだ。  ガラスのコップを握るように、……と自分には言い聞かせているのだけれど、なんにしろ慣れないことであり、自分を奮い立たせないと、手も繋げない。勢い余って怪我させる。 これじゃあ、抱きしめて全身複雑骨折もあり得る。  権力よりも命の危険を感じる婚約者候補たちは、いつも早々に辞退していった。サイはほっとしていた。サイだって、不可抗力でオオカミ殺しにはなりたくない。  ちょっと触っただけで、大怪我をするような伴侶はいらない。いつしか、サイもそう思うようになり、周りも諦めた。 だから、花形の防衛隊長という職務だけが、サイの自慢。  それに、防衛隊に入って来るような人化オオカミは、景気づけに叩かれたくらいで骨折はしないから、居心地も良かったし、サイが防衛隊長になってから、一般オオカミたちは遠吠えの約束を破らなくなった。  その頃のダイはというと、序列的には6番目という華々しい成績を挙げていた。もちろん、6番目では、あまり意味はないが、チビで力もなく、生肉まで食べられないという情けない王族としては、ずいぶんな快挙だ。  それを、サイは充分に喜んでいた。  あいつは、ダメな奴だと思っていたが、よくやった。  そんな気持ちで。  そんな弟が、ウサギの嫁をもらうという。  サイは、思わず父王に抗議をしに行った。 「それはあまりにも酷い役目ではありませんか?」 父王は言う。 「あいつは、怠け者である。仕方なかろう」 「怠けていて6番目まで上れるはずがないのではありませんか」 サイの言葉に王妃が続ける。 「サイもダイもよく似ています。だから、ダイに頼みました。その意味は分かりますね」  そう、サイもダイもよく似ているのだ。平均体質ではない。ただ、サイと違い、ダイは弱いから花形部署にも行けない。ダイの配属された部隊は、一番弱々しい部隊。 『子ども安全隊・犬っころ係』通称『犬っころ隊』だった。  王族の伴侶で、オオカミ化しない親族の配属は今まであったが、王族血筋で配属されたのは、ダイが初めてである。  だから、毎朝、『元気を出せよ』という意味で、色々と可哀想なダイの背中に気合いを入れるようにしたのだ。  だから、二度も欠席通知を送ってきたダイを迎えに屋敷へ向かった。  ダイは怠け者ではない。  日々は元気かもしれないが、もしかしたら、オオカミになった時に大きく自分の情けなさを感じ、悩んでいるのかもしれない、いや、陰口でも言われているのではないかと泣いているのでは、とさえ思っていた。  ウサギの妃が理由なら、なんとしてでも連れ出さなければ、可哀想な弟が除籍されてしまう、と。  本当に悲しいかな、自分の性質を理解せず……。 「もう、本当になんなのあの人。二度とうちと関わってくれるなって言ったのに、相変わらず毎日背中を叩いて行くし、こっちは衝撃に咳き込んで大変なのにさ。なんで、無視してるのに嫌われているって伝わらないんだろう。絶対に二度とプティラに近づかせないようにしなくちゃ」 「可哀想に最近は兄にまで挨拶ができなくなってしまったのか……。この間は失敗してしまったが、ウサギの嫁にダイの優しさと苦悩を伝えられんもんか……そもそも屋敷から出ることはあるのだろうか、あのウサギ。いや、しかし、ダイの屋敷へ行くことも、あのウサギの嫁と接触することも家族全員から禁止されてしまっておるし、さてどうしたものか」  サイの気持ちは、どうしてもダイに伝わらないようだったが、弟がそのウサギを大切にしているということだけは、理解したので、もうあの夜のようなことは…… ……ないと思われる。
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