『取扱注意のお妃様』

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『取扱注意のお妃様』

 さてリルラは目の前にいるオオカミの娘二人を見つめて困っていた。  薄茶の毛先を綺麗に遊ばせているショートカットの子がココ。  黒い毛をしっかりひっつめている、純メイドな真面目そうな子がフーラ。 「おはようございます」  ココははっきりした性格のようで、フーラはここに来た当初のプティラに似ている。  二人とも住み込みで働くらしい。  そして、リルラはメイド頭となる。  いきなりの出世に頭が痛くなった。それもこれも、ダイが序列4位に上がってしまったから。ダイが申し訳なさそうに一週間前に伝えてきたことは、こうだった。 「リルラさん、本当に申し訳ないんだけど……。僕ね、公務優先の4位になってしまいまして……。もっと犬っころ達と一緒に過ごしたかったのに……」 大きな溜息が落とされた。  プティラがお嫁に来て3年の歳月が経っていた。もともと前向きに頑張るプティラが、お妃様として自覚したのだ。頑張り方はもう他の草食獣と比べては申し訳ないくらいだった。  他の殿下の伴侶と比べてもプティラは引けを取らない働きをする。  もちろん、どうしても会食会場には出向けないという点は残っていたが、リルラやダイがいれば他のオオカミとの会話も滞りなく進められるようになっている。  時々、本当は一人でも大丈夫なんじゃないかと思えるほどだが、ちらちらと後ろを振り返るプティラを見ていると、そうでもないのだろうな、とは思っている。  だけど、そんな彼女の噂が王様に届いた。  役に立つと思われたのだ。 「やっぱり慣れた場所の方がプティラにとっては良いかなって思うから、今まで通りここに住むんだけど、でも、新しくメイドの働き口としての役割も申しつかってて……その…二人いるんだけど……リルラさんにメイド頭を頼みたくて」 「えっ」 おめでとうございます、と続けるだけかと思っていたリルラは、やはり、ダイと同じような大きな溜息を付きたくなって、やっと堪えた。 「分かりました」 旦那相手なら、こんないきなりの人事を告げた口を捻りあげていただろう。そんな一週間前を思い起こし、オオカミ娘達を見つめた。ダイよりもプティラよりも若い子だ。食事の作り方を覚えてくれれば、朝ゆっくりでもよくなるかもしれない。3人で回せば、公休日以外の突然の休みも取りやすくなるかもしれない。  子どもの熱やらで、突然休みが欲しいこともあるのだ。今までは家のこともある程度出来るプティラ様に甘えて休ませてもらってはいたけれど……。  そんな時は、純肉なしメニューしか提供されなかっただろうけど。  悪いことばかりではないかもしれない。  そして、新しい職場に期待と不安が混じるそんな彼女たちの瞳に、リルラはにっこり微笑んだ。 「リルラです。よろしくお願いしますね」  まずは、ここでの注意事項を伝えなくてはなるまい。 「まずは、雇い主はダイ様ではありますが、ここでの私達の主人はダイ様ではなく、プティラ様であると思っておいてください」 リルラは背筋を伸ばし、プティラに関する注意事項をひとつずつ丁寧に伝えていった。
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