『取扱注意のお妃様』

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 一応の挨拶を律儀にしに来たダイを思い出しながら、休憩中のキャナルは思い出し笑いを堪える。  ダイの面白いところは、とても丁寧に接してくるくせに、心の声がダダ漏れなその表情だ。さっきは、本当に迷惑そうな顔をしていたものだ。さらにダイがそんな表情を見せてくると、なんとなく父親になった気がしてふと構いたくなる。  以前キャナルは上司の先輩から聞いたことがあったのだ。  王族なのに、オオカミの血が薄い子が生まれていると。  あの子は可哀想だけど、すぐに手放されるよ。  でもね、人懐っこくて可愛い犬っころなんだよね。  好奇心旺盛で、よく走り回る元気な子。  人化しなければ、犬族に預けた方が良いんじゃないかなって思うくらいに、弱くて、優しい子なんだよ。  人化、して欲しいんだけどね。一応、俺も親戚筋だから心配してる。王族だから大丈夫だとは思うんだけど。  その後キャナル自身も色々あってダイが配属されるまで、上司の戯言など気にもしていなかったのだけど。 「ふふふ」 キャナルは思う。  面白いオオカミに育ったもんだ。  指導員に心配されて、生肉で腹を壊し、ウサギの嫁をもらい、ひとしきり惚気て、まさかの序列逆転。手放されるどころか、引き寄せられている。  初めは、『万が一』を心配して遠吠え会の参加を促そうと思っていた。  『万が一』王家除籍となった場合。  『万が一』オオカミの力をコントロール出来なかった場合。  しかし、リルラというあの小型オオカミを見て、ダイが自分自身を完全に信用していないことが分かった。だから、あの時、屋敷の主の意味合いでダイを『主』と言ったのだ。リルラの主人はプティラだ。  リルラはダイのためではなく、プティラのために動くオオカミ。しかも比較的穏やかで、裏切りを嫌う種だ。  身の回りを世話させるメイドを一人付けると言われ、リルラを所望し、プティラに付けるように『駄々を捏ねた』のがダイ。これは長兄カイの言だ。  もしかしたら、伸し上がれるんじゃないかと思えた。  オオカミを前に話をしようとするプティラを実際に見て、このふたりが何かを変えていくのではないだろうか、そんな期待すら覚えた。  オオカミにとってもウサギにとっても。延いては肉食と草食にとって一番良い関係を探り合えるのではないだろうか。  だからの一押し。  除籍を考えるのではなく、掴むを考える。 「キャナルさんのコップってこれで良かったですよね」 ダイに代わりここで働き始めた新しいオオカミの男の子。 「あぁ、それそれ。そうそう、今日はこれがおすすめなんだよね」 そう言いながら、キャナルはマグカップを受け取り、代わりに甘いお菓子を彼に渡した。
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