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『りんごが好きなオオカミさん』
キャナルさんに挨拶をしてから一年後。馬車に揺られること二日間。
途中に犬の国、人の国を通り、猫の国とニワトリの国を通り過ぎ、馬の国で休む。後はウサギの国に辿り着くだけ。天気には恵まれた。馬車の外は晴天だった。
「美味しそうな牧草の匂いです」
目をキラキラさせながら、プティラがダイに伝えるが、美味しそうとは全く思えない。
「うん、新鮮な草の匂い。ここはもうウサギの国?」
「ダイ様、草じゃありません。牧草です。えっと、まだ馬の国の牧草の匂いです」
プティラは『草』と言うと、いつも怒る。明らかに草でも「葉っぱです」と不思議なこだわりを持っている。
とりあえず、ここから五日間は肉を食べられない。牧草は食べたことがない。プティラが言うには、パンもご飯も野菜もオオカミの国と同じようにあるらしいので、五日くらいなら生きてはいけそうだけど。
サイ兄様だったら、発狂しそう……。
そう思ってプティラと同じように窓の外へ視線を投げた。
今回の視察は、ウサギの国と友好であること、を目的としている。警戒心の高いウサギの国とオオカミの国が友好関係にあるとなれば、他の草食獣との関係も少しずつ改善されていくと思われた。
まずは、人化同士の友好を。
そして、その後一般を考える。一般となると問題が深い。
ダイは順位交代が行われたあの日を思い出す。
「このままだと、一般オオカミを餌付けしなければならなくなるということか」
とは、父王の言葉を聞いた王位継承第一のカイの言。やはり、カイが次期王になることは間違いないのだろう。父のように上も狙うが、父王と違い、とても慎重である。父王の言うプティラの役割のその向こうにある未来も見通す。彼が生きる時代だ。
「それは避けねばなりませんね。私達は犬族と違い、自立も大切にしていますからね」
モイが続け、四位だったケイが「それでは、仕方ないですねぇ。あの役立つウサギは私に懐いていませんし」と諦めたように笑う。
「なるほど、それでダイが四位なのだな」
サイが納得したようにダイを見つめた。ダイは黙ってその会話を聞いていた。
ただ『ダイ』がすべきことは、なんだろうと考えていたのだ。
プティラだけなら問題視されなかっただろう。だけど、ウサギの国の姫としてプティラが背負う役目を考えれば、今後同じようなケースが出てくるようになる。
もちろん、一番手カイも三番手サイも、二番手のモイ姉も、五番手に落ちてしまったケイ兄ですら、「お前のせいだからな」とダイにチクチク言うくらいで、プティラのことはまったく嫌っていない。きっと、いつか出てくる問題だったと思っていたのだろう。
モイ姉に至っては、プティラをお人形か何かと思っているような雰囲気すらあり、冷や冷やするほどだ。
「ちっちゃくって、かわいい~。耳も…あぁ、食べちゃいたい」とうっとりと抱きしめた時は、さすがに引き剥がそうとして、一緒に抱きしめられたけど。
「ちっちゃい夫婦、かわいい~」
もしかしたら、一番の危険なのかもしれない。これはダイにとって思いがけない敵の出現だった。
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