『りんごが好きなオオカミさん』

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 だけど、そんな兄弟を見ていても、怖がられなければ、人化同士の友好は案外早く進むのだろうとは思えた。  ダイの役目はここだった。ウサギの妃が安心して傍にいるオオカミであることを、草食獣に知らせる役目。  しかし、ダイでさえ一般ウサギは、やっぱり『ウサギ』に思えるのだ。流石にマティは食べものには見えないが、やっぱり、ウサギである。オオカミとしては、一般オオカミが飢えるのであれば、約束は反故とする場合も出てくるかもしれないのだ。  ほんとうにプティラには申し訳ないが、オオカミ全体の考えとして、一般ウサギは、食べものでしかない。  一般ウサギを守らなくなれば、草食獣の政略結婚には意味がなくなる。そう考えれば、決裂させるのは草食の方だろう。 父王が言うように人族に脅かされてきた過去を鑑みれば、オオカミとしては人化全体を繋いでおきたいが、その政略結婚に草食ほど大きな意味を持っていないのも確かだ。  今は大きな問題は出ていない。オオカミの国の一般ウサギが増えすぎるということも、肉食獣のバランスが崩れていることもない。  一般オオカミがオオカミの国で安心して住めなくなる前に、進めなければならない協定改革。  プティラを見ていると、逃げたくなるような、お腹が痛くなるような未来。 「ダイ様、ウサギの国の牧草の匂いに変わりました」 「そうなの?」 匂いを深く吸い込めば、確かに違う気もするが、ダイにはその違いが、あんまりよく分からなかった。景色も変わらないし、同じ草の匂いだ。だけど、プティラがとても嬉しそうにダイを見つめている。 「はい、アイティラ姉さまにも会えます。ダイ様、アイティラ姉さまはとっても美人なのですよ。私の自慢のお姉さまなのです」  そんなプティラの笑顔を見ているダイの頭には、『オオカミのダイ』『プティラの伴侶のダイ』『序列第四位のダイ』 それぞれが巡り、交差していった。
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