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久し振りにプティラが帰ってくる。オオカミの国にウサギをしっかり知ってもらうためにだ。同じ立場の生き物として、認識してもらう機会だと、アイティラは未来を見つめる。人化から一般が生まれる今に必要なことだ。
しかし、ウサギは恐怖する、まずこれを克服しなければ、話し合いの席にも立てない。
ただ、ウサギの現状は騎士である夫のリクタを見れば火を見るよりも明らかだった。国を守る騎士ですらこうなのだ。
「もうすぐプティラが帰って来ますね」
「はい」
「嬉しくないの?」
アイティラは自分の夫が、義理であろうと妹の帰省を喜ばないことを、不満に思い詰め寄った。
「嬉しいです」
半分以上言わせた感はあったが、おそらく彼はその夫であるオオカミが怖いのだろう、とは十分に理解できた。
だけど、プティラが連れてくるのだ。きっと恐ろしい方ではない。
アイティラはそう信じて疑わない。それに、嫁いだ先から無事に帰省し、しかも幸せそうな顔を見ることが出来るだなんて、これほど嬉しいことはない。
「貴方と同じような髪の色だそうですよ」
「はい」
あまりにも怖がっているようなので、アイティラはプティラの手紙にあった内容を伝えてみる。銀灰色の髪らしい。かく言うリクタは鼠色に近いけれど。
「りんごがお好きなオオカミなのですって」
「はい、りんごが好きな銀灰色……銀鼠、少し白い……アイティラ様の髪に近いのかもしれませぬ」
「そうかもしれませんね」
そして、言っても無駄かもしれないと気づき、話を切り上げた。彼は王配であるが、王族ではないのだ。あまりの無理は強要できない。どうしてもなら、アイティラ一人でお相手をしなければならないのかもしれない、そう思い、苦笑いを浮かべる。アイティラ自身も人のことは言えないと思ったのだ。
一対一くらいなら話し合える自信はあるが、肉食獣に囲まれて自分を保っていられるかと言えば、おそらく無理だ。
「喜んでいただけることを祈るわ」
プティラの手紙の内容を一分たりとも疑わないアイティラは、やはりにこにこしながら、りんごの積まれた器を眺め、プティラの偉大さを感じる。そして、少しでもプティラが安心して過ごせるのなら、りんごくらいいくらでも用意しようと思った。
しかし、ダイはりんごを確かに好きだが、ダイの好物かと言えばそうでもない。
赤い色をした食べものの中で、という枕詞は、プティラの中で抹消されているのだ。
さらには毎回りんごのお菓子を作るプティラの好物がりんごであると、ダイの中では浸透しているくらいだ。
勘違いは多いが、だからりんごがたくさん用意されていても、ふたりとも何も思わず、『伴侶のために好きなものを準備してくれている』としか思わない。
そして、ウサギの国としてもりんごならたくさん準備できるので、喜ばしい。
そんな勘違いの中、プティラがそのオオカミと共に王城へ帰ってきたことが伝えられた。
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