『りんごが好きなオオカミさん』

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「アイティラ姉さまっ」 「プティラっ」  王城へ帰ってきたプティラはアイティラに飛びついて、「お元気ですか?」と大きな声で叫んでいた。 「プティラも元気そうで何よりです」 そう答えると、「美味しいりんごもたくさんありますよ」と玉座の間のまんなかにあるテーブルを知らせる。 「ありがとう、アイティラ姉さま。とても嬉しいです」 プティラが大きなお皿にたくさん載せられているりんごに近づき、ひとつ手に取る。 「ダイ様、りんごです」 とても嬉しそうに笑うプティラを見て、ダイも微笑み、ウサギの国の女王様に挨拶をした。 「ウサギの国のアイティラ陛下、この度はお招きいただき、このようなご好意まで。感謝申し上げます」  挨拶をしながらも、やっぱりプティラは愛されて育ってきたんだな、と思うだけ。本当にりんごが好きなんだな、と思うだけ。そして、まさか、オオカミのダイのためにりんごが準備されたとは思っていない。  だが、りんごを見て喜んだと勘違いしたリクタは、「あ、本当にりんごが好きなオオカミなんだ」と緊張をほぐす。 「どうぞ、頭をお上げください。プティラがあんなに幸せそうに笑っていられるのは、あなたのおかげですから」 「いいえ。私などにそのような力はありません」 ダイは結婚式のあの日からのことを思い出しながら、素直にその姉に伝えた。 「オオカミの国に一人でやってきて、心細かったことと思います。しかし、一度も挫けず、私に付いてきてくれました。すべては、ウサギの国での土台があったからと存じます」  思い起こせば、こんな日がやってくるとは思わなかった。  今があるから、笑って思い出せる日々。 「ダイ様は謙虚な方でございますね」 アイティラは否定することなく、微笑み、自分の夫を紹介した。すでに、リクタもダイを怖がっていない。その辺り、やはり選ばれしウサギだったのだろう。 「色々と不便をお掛けするかと思いますが、もし、外出での視察も希望されるのであれば、私めが共に参りますので、お声をお掛け下さい」 「傷み入ります」  背が高いと言われるリクタよりも、さらに一回り大きなオオカミへ対しての暴漢その他を、彼らが心配しているわけではないだろうが、王配であるリクタ自らが案内すると言うそれは、それほどに庶民のウサギがオオカミを恐怖の対象としているからなのだろう。  彼が付くことで、ダイへの信頼へと繋がるのだ。  そこで、アイティラが懐かしそうに城の中を眺めていたプティラを呼んだ。 「プティラ、ダイ様をお部屋に連れて差し上げて。まずは、一息おつきください」 「はい」 元気な返事がお城に響き、プティラはアイティラに対して膝を曲げて、お辞儀をした。  ダイは案内されながら、自分の前をぴょこぴょこ歩くプティラの背を見つめた。  プティラはウサギさんだけど、『ウサギ』だとは思わないし、人化のウサギを食べようとも美味しそうとも思わない。  もちろん、人化オオカミも特異体質の王族も、人化ウサギを食べようとは思わない。  しかし、一般オオカミは人化でも大きなウサギだと思ってしまうし、一般オオカミに一生、一般ウサギまで食べるなとも言えない。  これは、プティラが一生をオオカミの国で過ごせるということで出てきた弊害とも言えるのだろう。
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