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ダイが案内されたのは、かつてプティラが使っていたとされるこぢんまりとした部屋だった。ダイだと背伸びをしなくても、普通に天井に手が届く。
その天井には、丸いランプが三つ並んだシャンデリアが備え付けられていた。
薄い水色基調の壁紙は、女の子の部屋らしく小さな桃色の花柄が為されていて、鏡台と金縁の大きな出窓には、柔らかなレースのカーテンが掛けられている。
流石にそのままではなく、お客様用の応接セットとお茶のセットがあり、クローゼットなどはすっきり整理されている。
「オオカミのお屋敷に比べると随分小さなお部屋なので、お恥ずかしいです。ダイ様、マントを」
そう言いながら、当たり前のように手を差し出してくるプティラに、ダイは「今日はウサギの国のお姫様だから、座ってて」とそれを辞退して、お茶も二人分淹れようと手を出した。すると、プティラに「私が淹れたいのです……」と止められた。
「そうなの?」
だって、ここではプティラの方が……
そう思って口を噤んだ。
「はい。ダイ様には、その窓から少しでも多くの時間ウサギの国を見ていて欲しいです。正面の通りをずっと真っ直ぐ、そこには市場があって、お買い物が出来ます。それから左の奥にある大きな白い建物が教会。そして、右の奥の平屋の学校にはとっても大切な子ども達も。犬っころちゃんと一緒の。名称は、特別ないのですけれど。遊び時間になると、芝生の上でぴょこぴょこと跳ねている様子は見えると思うのです……だから、お茶を淹れたら、そちらにお持ちしますから」
「うん、分かった」
ダイは、プティラのその真剣な表情を見て、その意味するところを察した。ダイは視察が目的だが、プティラは少し違う。プティラは明日、幼い兄弟やアイティラ様のお子様にオオカミの国の話をする。
『ウサギ』にとって『オオカミ』は怖いもので間違いない。「だけど、怖がってばかりじゃダメですから」プティラはそう言うけれど。
「お行儀は悪いかもしれませんが……でも、待っててください」
そう言いながら、プティラは丁寧にお茶の準備を進めていった。そして、オオカミに嫁ぐ前のことを思う。
プティラは毎日ここで外を見ていた。
私が守る者たち。
あの人達のために、あの子達のために肉食に嫁ぐ。
きっと、私にはその役目が回ってくる。平均よりは少し上に上がれただけの中途半端な姫や王子はいつもそうだった。
プティラはここで、とても複雑な思いを胸に、窓を見ていた。
肉食獣に嫁いだ。
その肉食は、オオカミのダイ様だった。
リルラさんにお茶の淹れ方も教わった。
生まれて半年経たない犬っころを見せてもらった時は、ころころしていて、可愛いと思えた。
だから、ウサギの国のこともたくさん知って欲しい。
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