『りんごが好きなオオカミさん』

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 お茶を淹れたカップを両手に持って、「ダイ様」とプティラがダイに声を掛ける。 「ありがとう」  とカップを受け取ったダイが穏やかに話し始める。 「みんな生き生きして生活している。ウサギの国が平和で過ごしやすい証拠だね」  「はい。ダイ様、少しだけ持っていただけますか?」 そう言って、自分のカップもダイに預けたプティラは、ダイの腕の下を潜り、出窓によじ登って座りそのまま外を見られるようにして、座る。プティラは狭いところを通るのが好きだ。そして、ダイに持たせたカップに手を伸ばし、「ありがとうございます」と真面目な顔をして言う。  プティラの匂いはウサギだけど、とても優しい。  なんだかシフォンケーキのようなふわふわした、そんな……。 「ダイ様、ほら」  美味しそうな匂いじゃなくて。ふと感じるとても安らかな。花が香るような。  とても大切な。 「良い香りがする」  一瞬きょとんとしたプティラが「褒めてもらえて嬉しいです。リルラさんに習ったので、良い香りが立つのだと思います」と、自分のお茶の香りを嗅ぎ、にこっと笑った。 「良い香りです。ほら、あそこ、白いの見えます? 満月待ちのウサギの子達です」 お姫様や王子様が嫁いでいるから、守られていると信じていたい。  きっと、そんな思いに支えられ、みんな生きているのだろう。  昔、一般から人化が生まれ始めた。その時も大きな混乱が生まれた。何を境界とすべきか、誰もが分からなかった。  人化から一般が生まれる今、新たに考えなければならないことがたくさんある。  誰かが大切な、誰か。  一般オオカミがそうであるように。一般ウサギがそうであるように。  人化だから感じてしまうそんな感情なのだけど。 「本当だ。ちっちゃいのがいっぱいいる」 何が正解かは分からない。でも、少なくとも力が勝るという理由だけで、オオカミがウサギの国の民を蔑ろにするようなことには、ならないようにしたい。  今のダイの立場なら、次期王になるだろうカイにその口添えが出来る。上昇志向も少しは良いのかもしれない、と思った。 「ダイ様、明日、いただいたりんごをあの子達に少し分けてきても良いですか?」 ダイがウサギの子を見つけたことに嬉しそうにするプティラに、ダイはごく当たり前に返事を返した。 「もちろん」  ダイ様がウサギの子を見て優しく笑っている。その微笑みは、犬っころちゃんに向ける微笑みと同じ。  ただ、それが嬉しい。  だから、まだ小さな弟や妹、甥や姪にはこう伝える。 オオカミの国にはね、りんごが好きな人化オオカミもいるのです。  ニオイを嗅ぎ分けるのは大切です。でも、全てに怯えて、信じないこととは、別なのですよ。  護りたい者は、大切な者は誰なのかを知れば、ちゃんと幸せになれますからね。 「良いですか。隣に安心して立てることが大切なのです」  そして、満月待ちの子ども達には、………… 一般ウサギにとって、一般オオカミは危険であることに変わらない。誰が人化するか分からないから…………  プティラは、足元に集まるたくさんのふわふわ達に優しい眼差しで語りかける。  そのオオカミはりんごをよく食べるから、りんごの香りがするのですよ。面白いでしょう?   そして、私はそんなオオカミが好きな、変わったウサギとなりました。  だから、お土産はりんご。  みんなで食べましょうね。
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