psychedelic

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 よく見ると服に隠れた肩の付近にも痣がある。翔子さんは訥々と話し始めた。配偶者からのDVが始まったのは結婚式が終わってすぐのことだった。あの関係に気付かれてしまったのだ。義母がこっそり興信所を雇っていたらしい。離婚すればよさそうなものだが、向こうには世間体というものがある。それに結納金などは翔子さんの父親がギャンブルで負った借金の返済に使用してしまったため返すことができない。それに離婚するにしても理由は翔子さんの側にあるわけだから慰謝料を払えと言う。とにかく金がないのだ。 「結婚する前の話だから関係ないと思うんだけど、納得してくれなくさ。自由と放埓という考えはなかなか理解してもらえないよねぇ」  自分も原因の一端を担ってしまっているだけに何か提案しなくてはならない焦燥感を覚える。 「警察に相談とかした方がいいんじゃないですか」  ありきたりの提案だがDVも犯罪だ。警察だって動いてくれる。しかし、警察とは基本的に民事不介入にして事件が起きなければ動いてくれない。予防という観点だけでは積極的に動けないのだ。それに翔子さんの配偶者は医者なので世間受けが良いらしい。そこが余計に歯痒い。 「まぁ、あたしもそこに騙されたのかもねぇ」などとのん気なことを言っている。  バイト終わりに立ち寄ったいつもの場所ではもっと陰湿で嫉妬深い痣を見ることになった。その肌はあの時別れた夜とはまったく違っている。 「別れられないのは惚れた弱み、なんてね」などとまたしてものん気な事を言っている。金がないと言っていたくせに。それに今は誰と一緒にいるのか理解してもらいたい。 「ウルグアイに行きましょう。翔子さん」  か細い体を抱き寄せ、薄暗い部屋の中で何度もこのセリフを繰り返した。何度言ったかわからない。 「じゃあさ、うん。行こうか」  最後に翔子さんは言った。二人でタバコに火を点ける。周囲がパチパチと弾けている。タバコの煙ってやつはニョロニョロとして蛇みたいだな。世の中ってこんなにサイケに見えたっけ? それに翔子さんの香りが移った甘い紫煙が部屋中に広がっていくのを感じる。  これって、マリファナじゃないのか? ああ、もういいや。別にそれでも。  これからそれが合法的な国に行くのだ。  翔子さんとならウルグアイに行っても上手くやっていける気がする。
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