203■年8月12日

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「邪魔だ!」 群衆をどうにか止めようと立っていた希美は、向かってくる男に怒鳴られた。 その丁度数分前。 午後一時半頃。 東海地方の海に面したA町。南北に谷状になっているその地区に住む全員、きっと数千人はいるのだが、その全てが一目散に北側の高台へ向かって走り出していた。 老若男女、健康不健康関わらず、もちろん俊敏性において差はあるのだが、とにかく絨毯のように二車線の道路を人間が埋め尽くし、一方向に向かっていた。 理由は明快だ。 地面が大きく、とてつもなく大きく揺れたのである。 まだ名前のついていない地震であったが、誰もがそれを南海トラフと呼ぶものだと確信していた。 一瞬でつぶれた家屋もある。 道路に地球の彼方まで届きそうな地割れもある。 政府や自治体の用意していたありとあらゆる警報が鳴り響いた。 となれば、その地区の人々は、どう行動すべきかを啓蒙されていた。 海から離れ、少しでも高いところに逃げろ! 落ち着いて避難せよ! 助け合い、迅速に行動するのだ!
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