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タケシは希美を見つめる。
希美は彼の言わんとしていることが分かった。
タケシの声は男性としてそれなりに大きなものである。
それを希美がやればどうなるか。
希美の歌声は遠くまで美しく響く。
タケシの脳裏には、希美の声が岩々に反響し、洞窟全体を大きくかつ多方向で小刻みに振動さえる様子が映っていた。
地震のドンとした大きな揺れとは異なるが、石垣のような構造は、小さく複雑な揺れに弱いかもしれない。
タケシは希美の手を引き、石垣から離れ、それが決壊した場合に水が来ないと計算される少々高い岩のうえに登った。
希美は足場を確保し、背筋を伸ばして立つ。
大きなホールが満席になっているような気分で息を大きく吸った。
ずっと遠くまで届くように、皆の心に届くように。
希美は歌い始める。
洞窟が振動し、石垣から砂が絶え間なく零れる。
タケシは希美の体を支えている。
歌は続き、幾重にも声が重なる。
声なのか、岩々の歪む音なのか、水の音のなのか、あらゆる音色が混ざり、洞窟全体がぐにゃりとひん曲がったような感覚をタケシは感じていた。
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