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希美は素直な子である。
背中を唸りの方へと向け、走り出した。
しかし大勢の流れに逆行することになって進めなくなった。
かき分けようとはしたし、そうすれば少しずつでも進めただろう。
通りを迂回し、田畑に入って進むこともできたかもしれない。
だが、希美がその場に留まったのは、ゾッとしたからだ。
地区の人間が皆行くべき方向の逆に向かっている。
それはとても危険なことに思えた。
大移動する人間がすべて滅んでしまう、そういう風に考えた。
心配し過ぎであろうか。
二十歳になったばかりの希美は、友人たちからどちらかと言えば大胆と評される。
だから、不安は杞憂ではない筈だ。
まず、希美の育ったC村はA町と同様海に面し、山に望むという地理的な特性が似通っているし、ちょうど中央あたりを東西に横切って窪んでいるという地形も似ていた。
となればやはり、山が揺れたのに山へと向かうなんてことをすれば、皆巻き込まれてしまう。
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