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希美は怖くなって隣にいた男子の手を無意識に握った。
ただ、それは希美だけがしたのではなく、二人同時にしたことだった。
手を地面に着き座っていたから、ふたりの接する手がごく近くにあったのだ。
「溶岩流は熱い。とにかく熱い。富士を望むこの村も隣の村も、離れた町も焼き尽くしてしまう」
タエ婆さんは震える声で言った。
「どうしたらいいの? 怖いよ」
希美が尋ねるとタエ婆さんは優しく笑った。
「海が唸ったのなら、山に逃げるんじゃ。山が唸ったのなら……海に逃げるんじゃ」
「唸る?」
「耳の良い子になら聞こえる筈じゃ。お前たちは、自然の声が聞こえるか?」
「自然は話したりしないよ!」
男子が全て分かっているという顔で、はきはきと言った。
彼の名はタケシ。
手にはゲーム機を持ち、鼻をほじっていた。
「聞こえる者もいる。希美、あんたはどうだい? 天気が荒れるとき、地震が来るとき、その前に何か音を聞きとってはいないかい?」
希美は言われて思い当たることがあった。
家族に言っても首を傾げられてしまうからいつからか黙っていることにした体感。
タエ婆さんが言うように、それは自然が大きく変化するときのことで、低く重たい音がどこからかするのだった。
動物の泣き声とも木々の揺れる音とも違うが、唸っている、そう表現されたなら、納得してしまう音。
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