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「私、聞こえているかもしれない」
希美は自信なさそうに言った。
タケシは驚いて希美の顔を覗き込む。
「そんな気がしてたよ。希美は聞こえる子だって。あんたは歌も上手だし、耳がいいんだ。あんたは特別な子なんだ」
タエ婆さんは希美の頭を撫でた。
希美は恥ずかしいような気持がして、うつむいた。
歌うことは好きだけれど、そんな特別なものじゃない。
「聞こえても私、かけっこ苦手だから、間に合わないと思う」
希美は照れ隠しもあってそう答え、もう話は終わってくれた方がいいと思っていたが、男の子が割って入った。
「じゃあさ、もし聞こえたら、俺に教えてくれよ。背負って逃げてやるから。かけっこ得意だし、重たいものも持ち上げられるからさ」
「そうやって、皆で協力するんだよ」
タエ婆さんが二人の手を握った。
皺が多いがやたら温かい手だった。
「助かる? 海の唸りでも、山の唸りでも、皆助かるの?」
「それは……分からん。津波は村の高台までは上がってこないと神社の石に記録がある。溶岩流は……昔の池の水で冷やしたと聞いた」
「池? 森に池なんてないよ」
タケシは言った。
「昔話じゃからな……。枯れてしまったのかもしれん。ほれ、そこに丸く窪みがあるだろう? そこにも昔は水が湧いていたらしくてな、きっと森にもなにか水源があったんやろう」
「その水で、溶岩を止めたのね」
希美は目を輝かせて言った。
「言い伝えでは……そうじゃが……」
タエ婆さんはそう言ってふたりを抱きしめた。
「きっと教えを守って行動すればきっと生き残るものがいる。だから私らはこうして村に生きているんじゃ」
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