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そのすべてが恋心だと気付いたのは、まさしく孝一のプロポーズのお陰だ。
「俺も、好きだ」
体を巡る血液が沸騰しているかのように思えた。
自覚したばかりの気持ちを告げることがこんなにも勇気がいるのかと初めて知った。
そして、恐れることなく善一に想いを告げてきた孝一に今すぐ抱きつきたくなった。
だが、この後の流れは恋愛をしてこなかった善一でも流石にわかる。
「っありがとう。一生大事にする」
「俺もだよ」
善一の答えに、孝一は花火にも負けないくらい顔を輝かせた。
化粧箱を握っている孝一の指先の震えが止まったのが見て取れた。
孝一はいそいそと箱を机の上に置くと、二つの指輪をそっと取り出した。
そして、その内側を善一がよく見えるように目の前に翳した。
「勝手に作って悪い。でも、いい出来だろう?」
ひとつの指輪は、裏に埋め込まれたシークレットストーンのダイヤをコルクに見立て、羽の部分は刻印で表現されていた。
もうひとつの指輪のシークレットストーンはラケットのガット部分に見立てられ、グリップ部分が刻印されていた。
そして、それ挟むように善一と孝一の名前が刻印されていた。
「うわ凄……」
「俺ららしいだろ?」
「もう最高」
善一はとうとう我慢ならず孝一に抱きついた。
相変わらず逞しい筋肉に覆われた孝一の体は弾力があり、同じくらいの体格の善一が飛びついてもびくともしない。
温泉に浸かったため、当然ながら肩口から香るのは善一と同じ匂いだ。
「おい、格好くらいつけさせろ」
「今更だろ」
「こういう時くらいってことだ」
「ああ、ごめん」
指輪を取り落とさないように両手の拳を握りしめた孝一は、背中を反って善一の顔を見ると嗜めた。
確かにそうだと思った善一はその言葉に素直に従った。
二人の間に僅かな隙間が生まれる。
孝一が善一の手を恭しく取って、薬指に煌めく指輪を通した。
そして、善一も孝一から指輪を受け取ると、その左の薬指に指輪を嵌めた。
どうやったのか、指輪はぴたりと合っていた。
「これ、サイズはどうやって測ったんだ?」
「そう言うこと聞くなよ」
「あー……。ごめん」
意外と格好つけたがりの孝一を見て善一はくすりと笑った。
それを見て孝一もつられて笑うと、目と目が合った。
愛しいと、その瞳が雄弁に語っていた。
二人は花火で彩られる部屋で手と手を重ねると、そっと触れるだけのキスをした。
瞬間、光と音のハレーションが起きた。
どうやら花火の打ち上げが終わったらしい。
「フィナーレ、見逃したじゃないか」
「ごめん。来年も一緒に見に来よう」
「夏央と雅俊も?」
「馬鹿言え。二人きりで、だ」
未来を約束され、さらに胸が高鳴った。
意識した途端、孝一が格好良く見え始めて敵わない。
孝一の顔を直視できなくなり、照れ隠しで話題を逸らす。
「でも、夏央がうるさそう」
「こうして黙らせればいいんだよ」
ぐいっと体を引き寄せられ、再び唇が重なる。
今度は触れるだけのキスではなかった。
確かに、これなら夏央は静かになるだろう。
善一はその光景を想像して口角を上げると、深くなっていくそれに身を委ねた。
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