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 バドミントンは好きだ。  学生時代のすべてを捧げるくらいにはバドミントンを愛していたし、孝一と組むダブルスも、勝利したときの高揚感も忘れることなど絶対にない。    だが、一生食っていくには手に職をつけたほうがいいような気がしていた。  だから工業高校に進んだのだ。    バドミントンの技術も何にも変えられない貴重なものだとは思う。  それも、全国で通用する実力だ。  それでも、いつまでも現役でいれるわけではない。  常に勝利を求めるのは、果たして善一が求めたバドミントンだっただろうか。  そのプレッシャーに耐えられるだろうか。    現実に立ち返ったとき、善一は自分の気持ちと真摯に向き合った。  孝一と肩を並べて更に高みを目指すのは楽しい。  胸がドキドキして、試合の前は楽しみで緊張なんてほとんど感じたことはない。  でも、それは自分自身の意志だ。  善一自身がバドミントンを楽しんでいるから、自ずと結果がついてきたものだ。  そこに他人の期待がのしかかってくると想像しただけで、善一は心臓を無遠慮に鷲掴みにされるような不快さを覚えた。  言語化できない違和感に襲われて、善一は自分がプロに向いていないことを自覚した。  高校三年生を間近に控えた春、すでに大学やスポーツ用品メーカーからスポンサーになるとの打診が孝一とともにペアで、という話があった。  インターハイに集中したいからと返事を保留にしていたこともあり、考える時間はまだあった。  インハイ予選を前に、善一は孝一に胸の内を曝け出した。 「俺、孝一ともっとバドをしたい。でも義務感があるのは嫌だ。楽しめなくなりそう」 「だろうと思った。俺もだ。義務になると多分、バドを全力で楽しめない」 「じゃあ……」 「プロの話は断る。どんな形になろうと就職したからバドしないってことは絶対ないからな」 「それはもちろん」  プロにならないからと言って、バドミントンを辞める理由にはならない。  将来的に実業団に所属し、アマチュア選手になるという選択肢だってある。  もしそうでなくても、地域のバドミントンクラブに所属してもいい。  善一はとにかく孝一とダブルスができればよかった。  孝一と同じ気持ちでいたことに、善一は身を震わせて喜んだ。    この結論が出た日に両親に揃って報告すると残念がられたが、自分たちで決めたならと後押ししてくれた。  翌日には顧問に報告し、顧問経由で断りを入れてもらった。
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