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棺桶のような白い箱の中で、シスウイはこんな夢をみていた。瞼を閉じているが、視界は黒くならない。白い壁のような景色が光のない世界を覆っている。いや覆っているよりも、圧迫しているというほうが正しいかもしれない。何もない世界ではなく、白い壁がそこにはある。
目を開けたくても開けられない。意識がいつからあるのか分からないが、かなり前からこの模様も汚れもない白い壁を見つめている気がする。
シスウイは壁を見つめながら、先ほどの夢が、夢ではないことを思い出した。あれは記憶だ。この船に乗る前の。
低くのびやかで透き通った、男性のような女性のような、この船の船長の声をシスウイはよく覚えていた。その船長の名は「アクラ」と言った。人間ではない。AI(人工知能)だった。
アクラは搭乗前にシスウイにいくつか質問をした。年齢、性別、生年月日、コールドスリープ経験の有無について。
シスウイにはコールドスリープの経験がなかった。地球から出たこともない。身体を仮死状態にして、遠い居住可能な星に住んでいる遠距離恋愛中の恋人と会うため、今回はじめてコールドスリープをして宇宙旅行することを決めた。
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