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(はやくナラに会いたい)
彼女の名前はナラと言った。シスウイとナラはもう何度も仮想空間で出会い、身体に触れたこともあった。でもそれは疑似的な感覚であり、真実ではない。早くナラにあって、本当の彼女の肌の感覚を確かめたい。
アクラは最後の質問も形式ばったものではなく、問いかけるようにシスウイに尋ねた。なぜこのようなことを聞くのか、シスウイには分からなかった。
『古典的な質問だよ。トロッコ問題について……』
「トロッコ問題?」
『ああ。功利主義と義務論の対立だ』
「功利主義と義務論ですか?」
『難しく考えなくていい。シスウイ、君は、君や君の大切な人が生きていくために、誰かを犠牲にできるか?』
アクラの問いかけは使い古されたものだなとシスウイには思えた。何十年も、何百年も前から教室で論じられてきた話だ。
シスウイは答えを持っていた。
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