心の在処

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 彼女の名前はミカ。わたしの大切なパートナーだ。人工知能搭載型アンドロイドである彼女は、いつも決まったルーティンを繰り返す。  朝六時半に起床し、顔面を洗浄する。わたしはその間に、彼女の〝食事〟を用意しておく。彼女は人体と同じATP合成機構を備えており、人間と同じものを摂取することで活動を維持出来るのだ。 「おはよう、コハル」  彼女がわたしに挨拶する頃には、朝食の配膳は完了している。 「おはよう、ミカ。今日もいい天気ですね」  椅子を下げてやると、彼女はゆっくりと食卓につく。わたしはその向かい側に座って、手を合わせて神に祈りを捧げる。 「さあ、頂きましょう」  彼女のルーティンは、食事の順序にも現れてくる。  初めに水を飲み、サラダを口に入れる。三十二回咀嚼した後、飲み下す。その後に、スープを一口。これを二回繰り返した後、ベーコンエッグの黄身の周りを丸くくり抜いて横に除ける。  続いて白身を四等分にしてそのうちの一枚を食し、下から現れたベーコンを頬張る。少し固めに焼いたベーコンは、歯ごたえがあるため、彼女は必ず七十五回の咀嚼を行う。それを飲み下したところでスープをもう一口。これをもう一度繰り返して、サラダのルーティンに戻る。綺麗にサラダを食したら、白身の残りとベーコンを平らげる。  そして、最後に残った黄身をつるんと口に入れ、スープと一緒に飲み干す。  毎日、寸分違わない完璧なルーティン。彼女には秩序が必要なのだ。わたしは彼女の完璧に計画された日常を補佐し続けてきた。
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