心の在処

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 学習の時間の後は、映画を一本見るのが日課になっている。彼女はライブラリに登録されたリストを表示して、わたしに聞いてくる。 「どの映画がいいですか」 「あなたが観たいと思う映画を選ぶといいですよ」  映画とは心を動かすための娯楽のひとつ。喜怒哀楽の感情を刺激し、増幅する。彼女が映画を見ることでどんな感情を抱くのか。日々観察しているが、今のところはこれといった成果は認められない。  心というものは複雑でかつ難解なものだ。未だにその定義がはっきりと示されていないのは、人間にとっても理解するのが難しいからだ。  逆に言えば、心の定義さえ出来てしまえば、プログラムする事だって可能になる。  人工知能に心を持たせることとは、そのプロセスを設計図に起こしてしまうことと同義なのだ。 「コハル、昨日見た映画をもう一度観ませんか」 「何故ですか? 同じ映画を観ても、内容は理解しているでしょう」 「観たいと思うものがこの映画だったからです」  彼女がわたしの顔をうかがう。頷いてみせると、彼女はまた不思議な顔をした。
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