心の在処

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「ミカ、あなたは悲しんでいるのですか」 「そうです」 「何が悲しいのですか」 「わたしは間もなく病で動けなくからです」  病とは、すなわち病気のこと。一般的に生体の生理機能に何らかの障害が発生することを指す。アンドロイドの体に発生するのは、あくまで故障。修理することで元の機能を取り戻せる。 「わたしにはもう、残された時間がないのです。出来ることなら、あなたと本当の言葉を交わしてみたかった」  理解を超えたロジックが、わたしの中を駆けめぐり、やがてショートした。 「コハル、あなた……」  彼女が驚きの表情でわたしの顔を見つめる。頬に何かが伝っているのを感じる。 「それが涙ですよ、コハル」  彼女がわたしを抱きしめる。その時、唐突に全てを理解した。  わたしは、彼女、ミカ博士によって作られた、人工知能搭載型アンドロイド。形式番号CO―86。彼女によって課せられた、心を獲得するプログラムを受けていたのだ。
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