おい。忠太。

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なんだと。狸がしゃべった。 目と目が合い、お互いに動きが止まる。 「た、狸がしゃべった、、、、!」 「ええ、旦那。どうか見逃してもらえませんか‥」 「お前さん、言葉が通じるのか?」 「へ、へいっ。あっしは、狸のポン太と申しやす。」 「旦那は、話が分かる男の中の男と見込んでおねげぇします。」 男の中の男、、、。 「ダメだ。お前は俺の夕飯する。」 「そう言わねぇでください。旦那は優しそうで賢い人だと思って、あっしは掟を破って声を掛けたんでさぁ」 優しそうで賢い、、、、。 「そう見えるのか?俺が?」 忠太は他人から褒められた事が無かった。 「えぇ。もちろんっ。旦那のその顔付きなんて賢さが滲み出ているし、旦那のその目は優しさに溢れておりますゆえ。」 嬉しかった。 「あっしを、罠に掛けるなんて賢くなくては出来ませんぜぇ。旦那。」 「そうは言ってもなぁ。」 現実、貴重な食料であり これから冬を越すため保存食も用意しなくてはならない。 「そうだ。旦那!見逃してくれたら、とっておきのモノを差し上げますだぁ。」 とっておきのモノ? 「なんだ?」 狸は、濁りの無い澄んだ瞳でこちら見る。 「願い石でさぁ。」 「願い石?なんだそれは。」 「えぇ。我々、狸一族の宝で名を【願い石】と言うだぁ。持ち主の願いを何でも一つ叶えてくれる、奇跡の石でさぁ。」 なんと。 「それは本当か?」 「ええ。本当でさぁ。なんでも願いを叶える事ができやす。・・・・・但し、一度だけですが。」 狸は、どこからか一つの 石 を出すと忠太の目の前に差し出した。 「なんだこれ。ただの石っころじゃないか。」 それは、人の握りこぶし程度の大きさの石だった。 「旦那、ここからは気をつけてくださいよ。変に願い事を口にしてしまうとせっかくの願い石が発動してしまいますだぁ。」 願い石・・・・・。 「お、おう。そうか。そうだな。気をつけよう。」 「そうですぜ旦那。願い事を言った途端に、願い石は砕けて無くなってしまいます故、しっかり願い事を考えてから使ってくだせぇ。」 「お、おう。わかった。」 その後、忠太は狸に掛かっていた罠を外してやる事にした。 罠が外れると狸は、コクッと一礼すると山の奥へと消えていった。 「願い石か、、、、、。」 忠太は、夕食を食べながら思い出していた。 今日は、珍しく他人と会話をした事。 狸を他人と言って良いのかは分からないが、忠太はとても気分が良かった。 初めて誰かに褒められた事、願い石なる不思議な石を手に入れた事。 他人から何かを貰う事も滅多に無く嬉しかった。 「さぁて。願いは何にしよう。」 目の前の石っころを眺めながら、味噌汁をすする。
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