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忠太は、中へ入るとまず驚いた。
三郎は「汚い」「すごいホコリだ」「住める場所じゃない」とボヤいていたが、忠太はそうは思わなかった。
40年。
放置していた割に汚れていなかった。むしろ、せいぜい5年?10年くらいしか放置されてない様に見えた。
三郎のいう「汚い」「住める場所じゃない」は、忠太が住んでいた時からそう変化はしていない。
部屋の中を見て廻る。
三郎も途中から、宝探し感覚で少し楽しそうにしている。自分の親が生まれ育った場所に、やはり興味がある様だ。
忠太も、40年ぶりの実家を懐かしむ。
こんな食器あったか?
おっ、あれは中学生の頃の鞄だ。
ああ、そうそう。これは昔、父と母がケンカした時に出来た傷だ。
歳を取ると、昔の事ほどよく覚えてるというがその通りだなと、ほくそ笑む。
しかし、水回りに関しては忠太が使っていた頃よりなんだか綺麗に整理されている様にも感じた。
一部朽ちた床板を眺めていた時、忠太は電流が流れた様に唐突に思い出す。
忠太は、寝室へ走る。
寝室といっても寝具が置いてある4畳ほどのスペースでしかないが。
寝具近く、床板の一部に妙な切込みが入っている。
忠太は、狩りで使用するナイフを取り出し、その切込みに差し込んだ。
テコの原理でクイッと力を込めると、パカッと床板はめくれ上がった。
「ああぁ。」
声がこぼれた。
そこには、一枚の紙切れと握り拳程度の石が納られていた。
いつから忘れていたんだろうか。
【願い石】と忠太の【願い事リスト】を手に取る。
同時に記憶が湧き上がってきた。
そうか。
そうだった。
学校に通い始めた頃、忠太はコレを肌見放さず持ち歩いていた。
しかし、生活のために始めた新聞配達、常に新しい刺激に満ちた充実した日々。
「無くすと、いけないから」と床下に隠していた事をすっかり忘れていた。
改めて、自分の書いた願い事を確認する。
1、お金持ちになる。
2、綺麗な嫁さんが欲しい。
3、子供は三人欲しい。
4、ちゃんとした家が欲しい。
「フフッ」
思わず笑ってしまった。
「全くもって、浅い願いだな」
あの頃の忠太には、あらゆる事の知識にかけていた。
こうして見ると、【金】【人】【家】。なんてシンプルで、飾り気無い願いなんだ。
子供ならもっと大志を抱けと、今なら思ってしまう。
「でも・・・。あながち間違いじゃなかったな。」
忠太は半生を振り返る。
そう。全てのきっかけは、あの時出会った狸だ。
罠に掛かり、命乞いをしたかと思えば交渉を持ちかけ、命からがら逃げて行ったあのしゃべる狸。
忠太に、きっかけを与えてくれた賢い狸。
忠太は、自分でも自覚している。
それまでの忠太は、周囲より「馬鹿者」「阿呆者」「どうしようもないヤツだ」と罵詈雑言を浴びて育ってきた。
父と母からも、褒められ事など覚えてる限り一度も無かった。
自分は、「どうしようもない、ろくでもないヤツ」だと心底自覚していたし疑ってすらいなかった。
小さい頃など、周りの評価を真に受けてしまうものだ。
そう。それらの言葉は、まるで【毒】の様に忠太を蝕み、心をも蝕んでいった。
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