ブルーハワイ

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 真里亜は元来めんどくさがりなのに、高校は〈文化部の中の運動部〉と呼ばれる吹奏楽部に入った。  中学生のころは“ちょっとした問題”があって帰宅部だったけれど、高校からいきなり吹奏楽部に入ってもすぐにクラリネットのセカンドまで上りつめた。それもそのはず、両親がクラリネットとサックスのプロ奏者で、真里亜は英才教育を受けてきたのだから。  私みたいに、中学生のころに興味本位で吹奏楽部に入って、なあなあで続けてきたクラリネットとは、もう〈音〉がちがう。大会選抜メンバーにさえ一度しか選ばれたことがない私(しかも人数合わせのためだったから、実力で選ばれたわけじゃない)からしたら、真里亜は異端だった。  なのに、真里亜は私のことが気になるのか――もしかして憐れんでいるのか?――よく「スズ、スズ!」と声をかけてくる。今日もほら、真里亜は制服のスカートをはためかせながら走ってやってきた。 「スズ!」 「真里亜、どうしたの?」  階段を登って部室に向かっている途中の私を制止させて、真里亜はどこかうれしそうに言った。 「私、夏からバスクラに転向するから」 「……は?」  バスクラ、というのはバスクラリネット、低音域を奏でる大きいクラリネットのこと。でも、いきなりなぜ? 「どうしたの?」  私がいぶかしげに尋ねると、真里亜は裏表のないその笑顔で答えた。 「〈ぶちょ〉に、あんたキライ、って言われたから!」
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